この旅の写真はココ(03/2月〜3月)

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ハヌマン・ジー


インドでピンチ

「せっかくマハラジャの土地にいるんだから、宮殿ホテルで豪華ディナーしようよ」

前回の旅でも結局一度も豪華レストランに行くことなく、インドに来たと言うのにタンドーリチキンもナンも食べることがなかった。今回こそ美味しい豪華料理を堪能しよう!しかも宮殿ホテルで!!

と思ったのだが、ジョードプル一、いやインド一との誉れ高い
ウメイドパワンパレスという宮殿ホテルは、まずホテル内に入場する為だけに1人500ルピーもふんだくると言うのである。という事は2人で1000ルピー(≒2500円)。これって、入場するだけでこんなにかかるんだよ!?なんじゃこの値段は。ぼったくり王様バーか! これはあんまり高すぎるというわけで、アジットバワンパレスというもうひとつの宮殿ホテルに出かけたのであった。

タンドーリチキン、バターナンにマトンカレー、そして夫はキングフィッシャービール(えびは下戸)。高いだけあって、料理はすこぶる美味しかった。えびも夫も、幸せな気分に浸りながら、蝋燭の灯る薄暗いガーデンでディナーを堪能していた、のだが・・・・。

豪華ディナー
◆食事はすこぶる美味しかったのですが・・・。


「何かオレ、気持ち悪い。胃のところがカーッとする」
夫が言い出した。今の今までパクパク料理を食べていたのに、である。
そして
「今ここで吐いたらヒンシュクかな」
と聞いてきた。
「えっ、トイレに行って来なよ。どっか近くにあるやろう」
別段大した事なかろうと思っていたえびが、そう答えるか答え終わらないうちに、突然、夫の目がうつろになった。

そして 目の前を ゆっくりと 倒れていった。

「うそ!?」「まじで?」

椅子から転げ落ちようとする夫の腕をすんでの所でつかみ、必死に呼びかける。一瞬、正気にもどって「大丈夫 大丈夫」とつぶやいた夫だが、またすぐ苦しそうにして、テーブルクロスをぐしゃぐしゃにかき集め、その中に吐こうとしている。
駆けつけてくれたウェイターに「すぐ医者を呼んでください!!」と訴え、ただオロオロするえび。体を支えきれず、芝生に倒れこむ夫を運んできてもらった椅子に寝かせてもらう。

ちょっとー。インドだよ、ここ。しかもデリーとかボンベイとかの大都会じゃないじゃん!何かあったらどうすればいいんだろう?医者って大丈夫なの!?ここからすぐ日本に帰るにはどうすればいいのかな。航空券て正規のを買わなきゃいけないんだっけ。保険の手続きってどうするんだっけ(←妙に現実的)!?

一瞬の間にいろんな考えが頭の中をぐるぐるぐるぐる回っていた。そして今考えるとホントにばかみたいだが
「もしももしも、夫が今、ここで死んじゃったらどうしよう」
なんて事までちょびっと考えてしまったのだった。まじで。いや、あまりに突然の出来事だったし、気が動転してたものでねえ・・・。

まあ、幸い夫はすぐ意識を取り戻し、弱々しいながらも
「ひょっとしてオレ、恥ずかしくない・・・?」
といかにも日本人らしいコメントをつぶやいてくれたので、そういう心配は一瞬で終わったんだけど。もうっ!恥ずかしいとか言ってる場合か!
まわりのウェイターたちはその間も甲斐甲斐しく毛布を持ってきてくれたり、楽になるようにズボンのヒモをゆるめてくれたりして働いてくれた。
 


そうこうしているうちに黒いお医者さんカバンをひとつ持ったドクターがやってきた。まだ動揺が残ってるえびは英語とヒンディ語のチャンネルがうまく切り替わらず、そりゃめちゃくちゃな言語をしゃべっていたと思う。

「えーと、彼は突然・・・・英語で何て言うかわかりません・・・・えーとえーと彼は感じるって、イスタラー(このように)」←ここで吐くジェスチャー
「えっ、注射するんですか?それ、ナヤーワーラー(新しいやつ)?マットラブ(つまり)・・・・使い捨て?彼はティケ(大丈夫)ですか?」

吐き気、うつろな目、気を失う、どれも英語がでてこない。帰ったら病気関係の英語勉強しよう。緊急事態ながら激しくそう思った・・・。

注射を打たれ、小瓶に入ったピンクの液体薬を飲まされた夫はだいぶん気分も回復してきたらしいのだが、一難去ってまた一難。今度はお腹がエマージェンシーに。そしてウェイターの一人に支えてもらってトイレに行こうと立ち上がった、その時。
第二の事件発生。

公衆の面前で、夫のズボンがするっと脱げて、足元に落ちた。落ちたったら落ちた。

ズボン脱げた。
クルタを着ていたのでかろうじてパンツはさらさず。

・・・・そういえばさっき、ズボンのヒモ緩めてたじゃん。

「ピー 恥ずかしいッピー」
あまりの事態に*キスケしゃべりになりながら、ズボンを引きずりトイレへと消えて行った我が夫。ああ脱力。何もこんな時にそんな面白いことやらかす必要はなかろうに。周りに日本人がいなくて良かった・・・。


キスケ
*夫のお気に入り、お○ゃる丸のキスケ


さて、ドクターの診断によれば
「空腹なところに急にビールを入れたので貧血を起こしたんだろう」
との事。どうやら心配はいらないらしい。よかった、変な病気とかじゃなくて。いやー、ドクターがすぐ来てくれて助かった。
「すぐ来ていただいて本当に感謝します」
「ありがとうございました」
「いやいや」

少し雑談できるほどに落ち着いてきた夫を見て、ドクターも満足そうにこう言い出した。

「さあ今はもう笑顔になったね。ステキだ。明日の朝もう一度食後のチェックをしなきゃいけないから、朝食の後私の診療所まで来なさい。朝ごはんに重たいものは食べたらいけない。バターもダメだ。チーズトーストと、それからレモンサイダーを必ず飲みなさい」

レモンサイダーとはこれ如何にと思いつつも、はい、はい、と殊勝に聞き入るえび夫妻。そしてドクターの話はこんな風に続いた。

「インドには旅行に来たのかい?初めて?そう、2回目なのか。キミたちは日本人なんだってね。
私は日本製品が大好きでね。家にもたくさんあるよ。バイクはスズキだし、テレビはアカイ、それから他にもあったなあ。とにかく日本製品は丈夫で素晴らしいね。 ところでキミたち、何か日本製品を持ってないかな?何でもいいんだ。時計とか、カメラとか。何か持ってるだろう。それを私にプレゼントするってのはどうかね?」

・・・・は?今なんとおっしゃいまして?


「いや今じゃなくてもいいんだ。明日の朝、病院に来る時に持ってきてくれれば。インドに来た記念にインド人に何か小さなプレゼントをするものいいだろう」

でた!絵に描いたようなインド的展開!

これって冗談かな?冗談よね?とうろたえつつ、夫を指差して
「彼も日本製なんですが・・・」
とジョークをとばしてみるも、あっさりと無視される。わー、冗談で言ってんじゃないや、こいつ。こんのー、クソ医者が!しかし明日の朝病院にお世話にならなきゃいけないわけで、ここであんまり強い態度に出るのも得策ではないし。執拗に日本製品と唱えるドクターに対し、
「いやー、あげられるようなものは持ってないなー」
と日本人得意のあいまいな笑顔で応戦するえび夫妻。

このクソ医者、レストランに酒やら食べ物やら出させて、さんざん楽しんで帰りやがった。ちょっと、そのお金ってどっからでるわけ!?それも治療費に含んでるんじゃないでしょうねえ?(結局この時の治療費は680ルピーだった)

その後夫の回復を待ち、宿に帰ったわけだが、さて明日の朝はどうしよう?心配だからやっぱり一応病院にいこうよと主張するえびだったが、夫は
「もう大丈夫そうだからいい。ただの貧血やったみたいやし、休めば治る。だいたい、あんなクソ医者に見てもらうほうがよっぽど悪そうだ」
と言って聞こうとしなかった。というわけで、もちろん医者の元に日本製品が渡ることはなかったのである。
薬
◆さすがはインド、薬はアーユルベーダだった。しかしマズくて飲めたもんじゃなかったらしい。

しかし今思えば、その辺のバッグにマジックででっかく「SONY」とでも書いて持っていけばよかったよ。まったくインドの権力を持ってるやつらにはロクなもんがおらん。貧しい庶民が何とか金をふんだくろうとする分は理解できるけど、金持ちなんだから大人しく金持ちらしくしとけってんだ。ぷんぷん。

呼んでくれた医者は最低なやつだったけど(でもこのあたりの高級宮殿ホテルおかかえドクターらしい)、倒れた所がたまたま高級ホテルのレストランで本当に良かった。ウェイターは皆英語を話せるし、マネージャーがきびきびといろんな手配をしてくれたし。夫が倒れてからしばらくの間は手荷物の事なんかすっかり忘れてたけど、それもちゃーんと無事だったし。まあ高級レストランでもなければアルコールも飲めなかっただろうから、そもそも倒れなかったのじゃないかという話はあるのだが・・・。

しかしあの時感じた怖さは今でもちょっと忘れられない。目の前で夫が倒れるなんて。そりゃ倒れた本人は覚えてないからケロッとしてられるけど、傍で見てた方はどんなに心配する事か。もうあんな思いは二度とごめんだ。次の機会には絶対自分が先に倒れてやるう!
帰国してから調べてみると、疲れている時にビールを飲むと一時的に血圧が下がって貧血を起こすことがあるらしい。皆様もお気をつけくださいませ。

 

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