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36
秋の夜の妻恋ひかぬる鹿の音は
暁になりやしぬらむと思ふほどに、山の方より人あまた来る音す。おどろきて見やりたれば、鹿の、縁のもとまで来て、うち鳴いたる、近うてはなつかしからぬものの声なり。
秋の夜の妻恋ひかぬる鹿の音は遠山にこそ聞くべかりけれ
知りたる人の、近きほどに来て帰りぬと聞くに、
まだ人目知らぬ山辺の松風も音して帰るものとこそ聞け
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37
思ひ知る人に見せばや山里の秋の夜ふかき
八月になりて、二十余日の暁がたの月、いみじくあはれに、山の方はこぐらく、滝の音も似るものなくのみながめられて、
思ひ知る人に見せばや山里の秋の夜ふかき有明の月
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38
苗代の水かげばかり見えし田の
京に帰り出づるに、わたりし時は、水ばかり見えし田どもも、皆刈りはててけり。
苗代の水かげばかり見えし田の刈りはつるまで長居しにけり
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39
あからさまに来てみれば
十月つごもりがたに、あからさまに来てみれば、こぐらう茂れりし木の葉ども残りなく散りみだれて、いみじくあはれげに見えわたりて、ここちよげにささらぎ流れし水も木の葉にうづもれて、あとばかり見ゆ。
水さへぞすみたえにける木の葉ちるあらしの山の心ぼそさに
作者は心細さを好むような向きもあるから、水が澄み堪えているようすに共鳴していると読みたい。私のように住み絶えてしまった、見えなくなったとしても、見えない裏側で水は澄み渡って、山の心細さを味わっているのだ、と。
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40
契りおきし花のさかりを告げぬかな
そこなる尼に、春まで命あらばかならず来む、花ざかりはまづ告げよ、など言ひて帰りにしを、年かへりて三月十余日になるまで音もせねば、
契りおきし花のさかりを告げぬかな春やまだ来ぬ花やにほはぬ
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41
なにともなきにものぞ悲しき
旅なるところに来て、月のころ、竹のもと近くて、風の音に目のみ覚めて、うちとけて寝られぬころ、
竹の葉のそよぐ夜ごとに寝ざめしてなにともなきにものぞ悲しき
秋ごろ、そこを立ちてほかへうつろひて、そのあるじに、
いづことも露のあはれはわかれじを浅茅が原の秋ぞ恋しき
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42
継母なりし人の上総大輔を名乗ること
継母なりし人、下りし国の名を宮にも言はるるに、こと人かよはしてのちも、なほその名を言はると聞きて、親の、今はあいなきよし言ひにやらむ、とあるに、
朝倉や今は雲居に聞くものをなほ木のまろが名のりをやする
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かめゐ
かめhr @ pluto.dti.ne.jp