内閣府規制改革推進会議提言について

 

以下は、雑誌・農林リサーチの12月号掲載の細川論文です。

規制改革推進会議の提言             卸売市場政策研究所代表・細川允史

1 提言の内容
 今年10月6日、政府の規制改革推進会議農業ワーキンググループと未来投資会議構造改革徹底推進会合は合同会合を開き、生産資材と農産物の流通・加工問題で意見をとりまとめ、改革を推進するため業界再編の推進手法を明記した新法の制定を提起した。これは今後さらに調整された上で、今年(平成28年)12月にも閣議決定されて現実になるという情報を得ている。
 趣旨は、「農村地域を豊にし、その経済力を高めていくとともに、意欲ある農業者が安定して農業を継続できるようにするためには、基幹産業である農業の生産性を高め、従事者の所得を増やしていかなければならない。」とし、施策具体化の基本的な方向として、①生産資材価格の引き下げ、②生産者に有利な流通・加工構造の確立、のふたつの柱を立てている。このうち、主に②についてコメントする。

2 共選共販体制の否定
②では前文で、「同一規格のものを大量・出荷-大量販売するこれまでのプロジェクト・アウトの生産・流通・加工の在り方から、実需者側の個別のニーズに対応したマーケット・インの生産-流通・加工へと発想の転換を促すとともに、農業者が自らの責任で販売先と価格を決定できる多様な選択肢が用意され、農業者と消費者双方がメリットを受けられる流通構造を形成するため、以下の方向で施策を具体化すべきである。」としている。
この文でも多くのことが読み取れる。まず、これまで青果物流通の主流であった共選共販体制が否定されていることが注目される。これは、戦後の農協てこ入れ策として、卸売市場と連動し、系統大型出荷の育成を基本政策としてきたことの否定といえる。
共選共販体制では、大量の規格品出荷を大型卸売市場に集中し、それにより価格発言力の確保と出荷側の優位性確保をねらいとし、それは一定程度成功していたと考える。しかしそのなかで、強引な卸売市場への価格要請とそれに伴う矛盾(要請価格に達しなかったときの出荷側の態度など)、もはや耐えきれない水準まで来ているという声が多い。
大型出荷であるほど高率な出荷奨励金による卸売会社側の負担増、中間経費増による卸売価格と生産者手取りの乖離、などを指摘したとすると、かなり的を得た指摘と言える。
「需者側の個別のニーズに対応したマーケットインの生産-流通へ」、という部分は、例えば生産者と卸売市場(卸売会社、仲卸)との間に契約栽培の手法による、生産者にとって安定した価格方式の導入、等も考えられる。契約取引は通常、生産者や生産組合と需要側(卸売市場を含む)との間で交わされているので、農協などの系統団体の排除につながる可能性がある。
つぎに、「農業者が自らの責任で販売先と価格を決定できる多様な選択肢」という下りの具体策の一つは契約取引(契約栽培)である。契約取引は、その生産者の生産品すべてについて行う場合もあるが、需要者側が必要な規格・部位に限定した契約もある。そちらの方が多いのではないだろうか。スーパーなどは売れ筋の規格についてのみ契約するというのが普通だと思う。その場合、売れ筋の規格・部位のみ直接契約され、それ以外の規格・部位は売り先がないから卸売市場への出荷ということが多いと思われるが、受託拒否禁止原則があるから、断れず、卸売市場は「ゴミ捨て場」と化す。これを「中抜き」という。中抜きされては卸売市場は大迷惑である。そこで、卸売市場としては契約取引もそれ以外も卸売市場で全て受け入れるという考えに立つ必要がある。つまり卸売市場側も柔軟な対応が必要ということである。
契約取引は卸売市場にとっては買付集荷の一種であるから、いまの法制度でも対応できると考えるが、卸売会社にとっては、産地との対応にこれまでにない取り組みが求められることになる。受け身で荷受けしてさばくといういまの姿勢から、産地と連携するという姿勢を増やしていく必要がある。従来のように、来た荷物を売りさばいて伝票処理して翌日の集荷手当てをして終わり、と言う流れだけではだめということである。産商提携の部門を設ける必要があり、そのような社内体制を強化すると言うことについては積極的に受け止めたい。

3 取引規制の撤廃は卸売市場を根本から変える
 提言のなかで、卸売市場に関わる部分についてはこう述べられている。「中間流通(卸売市場、米卸売業者など)については、国は、抜本的な整理合理化を推進することとし、業種転換等を行う場合は、政府系金融機関の融資、農林漁業成長産業か支援機構の出資等による支援を行う。特に、卸売市場については、食料不足時代の公平分配機能の必要性が小さくなっており、種々のタイプが存在する物流拠点のーつとなっている。現在の食料需給・消費の実態等を踏まえて、より自由かつ最適に業務を行えるようにする観点から、抜本的に見直し、卸売市場法という特別の法制度に基づく時代遅れの規制は廃止する。」としている。
 後段の「卸売市場法という特別の法制度に基づく時代遅れの規制は廃止する。」という部分の具体的内容については、①第三者販売の制限撤廃等、②商物分離の自由化、などが入ることは確実という情報を得ている。①と②で表現を変えたのは、第三者販売については、自由化(つまり制限撤廃)は行き過ぎという異論があるので調整されるかも知れないと聞いているので、あるいは完全自由化ではない可能性があると考えたからである。
 このなかで、①の第三者販売の制限の大幅変更は、現行卸売市場制度にとって重大である。つまりこれは、仲卸の否定につながるからである。当然いろいろな声が出ようが、筆者は
つぎのような経験をしている。
 ある公設卸売市場の経営戦略(展望)の作成を依頼され、その卸売市場の卸売会社や仲卸団体からのヒアリングを行っていたときである。仲卸団体から、「卸売会社が第三者販売を行っていて仲卸の仕事を奪った、けしからん」、と言われた。そこで卸売会社から話を聞いてみると、相手はスーパーであったが、元々は仲卸からの納入であったが、スーパーの規模が大きくなり、スーパー側が仲卸では安定した対応が困難と判断して卸売会社と直接取引したい、もしダメなら仕入れ先を別の卸売市場にするといわれたので、当市場のシェア確保のために受けたのだ、という説明であった。これは、卸売会社や仲卸、売買参加者などの売り手と買い手の分離という原則に立った卸売市場法の限界と言うことになろう。しかしこれまでその改革というのは誰も表面切って提起して来なかった。
今回の提起は、卸売市場法制度の根幹に関わる重要な提起である。第三者販売は大型取引に適用され、中小を含むこれまでの取引は仲卸が担うなど、卸売市場が全ての取引に対応していくための修正ということであれば卸売市場としても受け入れる余地はあるのではないか。
 商物分離の自由化というのも、インパクトは大きい。そもそも商物分離取引では卸売市場や卸売場という施設はいらない。補助金まで出した施設が有効活用されないようでは困る。また、出荷品の現物が卸売市場に搬入されなければならないという現物主義は、出荷品が卸売場に並べられて、それを買手側が下見をして品定めし、セリに臨むというセリ原則に即して定められたものである。商物分離ではそもそも取引品の原物を見ることは出来ない。平成16年の卸売市場法改正で導入された商物分離の解禁は、電子商取引で仲卸を噛ますという極めて限定的かつ非現実的な規定であるが故に、合法的な商物分離はほとんど実施されていないという現実となっている。国の検査でも、違法な商物分離は度々指摘されており、しかもなくならない。業界は第10次方針策定に当たっても、商物分離の規制緩和を要望してきたが、卸売市場法制度の整合性が崩れるということを恐れてと思うが、実現しないままである。
 これを撤廃するというスパッとした提言は、卸売市場のあり方を根本から変えることにつながることは間違いない。
 こういうことが考えられる。売買参加者の地域制限撤廃が同時に行われると、どの卸売市場でも全国、また外国の買い出し業者でも売買参加者とすることができる。すると電話一本で注文し、ロットが大きければ注文品を満載したトラックが直接、注文した遠隔地の卸売会社に配送され、伝票だけが元請け卸売会社で処理されるという典型的な商物分離も合法化される。集荷力が強い大型卸売会社へのさらなる集中化が予想される。
 また、仲卸にとっては、もし第三者販売の規制撤廃(緩和)と引き替えに、直荷引きの規制撤廃(緩和)が入ったとしても、大きな存続の岐路に立たされることになることは間違いない。筆者は、公設卸売市場における仲卸数は多すぎるのではないか、と考えているが、当該者が安心してリタイアできる生活安定制度にも取り組んでこなかった。ただ卸売市場から放り出すだけでは社会的な安定は実現しない。提言の別項で、業種転換等にあたっての政府金融機関等の融資という内容もあるが、時代の変化に翻弄される仲卸の救済という視点も必要と考える。

4 手数料の透明化
提言には、「国は、民間のノウハウを活用して、農業者が各種流通ルートについて、手数料等を比較して選択できる体制を整備する。」という内容もある。これに基づいて、国の来年度予算要求でさっそく、手数料の透明化に関する事項が組み込まれていると聞いている。
「手数料の透明化」とは、筆者は、「手数料の根拠になるコストを明確にすること」、と受け止めている。卸売会社が出荷側からいただく委託手数料の率は自由化されているが、卸売会社経営の根幹に関わることであると同時に、出荷者に負担を強いることである。コストを削減する工夫をした卸売会社が手数料率を下げ、競争力を強化するという経営戦略はあっていいと思う。手数料についてはあらゆる角度からの真剣な議論が必要である。
一言付け加えれば、単に委託手数料率うんぬんだけではなく、委託手数料から差し引かれる出荷奨励金、完納奨励金のあり方についても、同時に抱き合わせとして検討することが卸売会社の立場からは望まれる。出荷奨励金、完納奨励金の透明化(こういう理由でこれだけ必要という説明)である。
いずれもこれまでの卸売市場運営の根幹に関わることであるが、これまで正面切った議論がなかなかできなかった。その意味で、今回の提言は、卸売市場が大きく変動する起爆剤としての性格が濃厚である。それが卸売市場にとって、よい方向に変動するか、悪い方向に変動するか、卸売市場関係各位は全力を挙げて取り組まれることを期待したい。


 なお、食品流通構造改善促進機構発行の「生鮮EDI」12月号に、細川がより詳細な論文を寄稿しています。今後も、この提言が具体的にどういう制度・政策となって具現化するか、注視したいと思います。