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河川上流中流と海岸を回復させるための新たな工事方法

>コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(1)概要

河川上流中流と海岸を回復させるための
                 新たな工事方法


2019年8月1日一部変更
2017年7月7日大幅変更、2015年8月20日掲載

「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(1)概要」

はじめに

 この度、このサイトの構成を新たにして多くの記述内容を更新したのを機会に、この章「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法」も構成を変え記述内容も少し変更しました。
 
 記述内容を二つに分けて「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(1)概要」 と「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(3)写真」として、以前掲載していた「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(2)詳細」 は削除しました。と言うのも、この「(2)詳細」は、このサイトの「河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える」をお読み頂ければ了解していただける内容であり、それらの説明こそが、本サイトの最も重要な論述であるからです。
 この章「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(1)概要」は、河川の問題や治水問題などについて普段関心を持っていない皆様にも読んで頂くことを想定して、簡潔に記述しています。でも、できる事なら 「河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える」をお読み頂けることを願っています。
 また、「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(3)写真」では、上述(1)の記載内容をさらに理解して頂くために、河川上流で生じている実際の状況の写真を掲載しています。 皆様の興味や必要に応じてそれぞれの章をお読み頂ければ嬉しく思います。
 以下の標題をクリックすれば「(3)写真」の章に移動します。

「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(3)写真」

(1)「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法」の要点
 この工事方法は特許出願をしましたが、残念なことにその特許は認められませんでした。でも、特許の書類はこの工事方法の特徴を漏らさず記載していますので、まず最初に、この工事方法の要点、もしくはあらましを特許審査の際に提出した書類を引用して説明します。

 【発明の名称】河川の上流部及び中流部における護岸の方法
 【請求項】
岸辺から川の中央に向かって、或いは斜め上流又は斜め下流方向に向かって、
付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で、なおかつ小さな石や岩が最初に止まることもない間隔をあけて、
単独又は複数の杭を埋設して、上流から移動して来る大きな石や岩を又は元々あった大きな石や岩を堰き止め、その場にとどめることにより、
あるいは、単独又は複数の杭を埋設すると共に、大きな石や岩をまたは大きな石や岩に擬した人工の構造物を設置して、その場にとどめることにより、
新たな岸辺を形成し、それらを護岸の構成部分として機能させることを特徴とする護岸の方法。

 上記だけでは解り難いので、簡単に言い変えてみます。
 河川上流や中流の岸辺に、杭を埋設して、周囲にある石や岩の中で大きめな石や岩を、その場にとどめます。 杭によってとどまった大きな石や岩の周囲には、増水時に流下して来る石や岩や小さな土砂が堆積するので、 その場所は新たな岸辺となって水流の方向を変え或いは弱めます。杭を設置した場所は元の岸辺と一緒に護岸の機能を果たします。

 それでは、なぜ、この工事方法が有効であるのかについて、以下に順次説明します。

(2)「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法」の目的
 この工事方法は「河川の上流部及び中流部における護岸の方法」であり、河川下流部への施工を目的とする工事方法ではありません。 この工事が対象としているのは、石や岩が多いことが普通である日本の河川上流部や中流部の護岸や岸辺であり、河川敷や川床が砂や土である下流部のそれではないことをあらかじめご承知下さい。

 山地が多く降水量も多い日本には数多くの河川があり、それらの河川の上流部や中流部には多くの石や岩があるのが普通です。 それら河川の上流や中流にコンクリート護岸が数多く建設されるようになったのは比較的近年の事です。 ですから、今から40~50年前には、河川上流や中流の谷間や河川敷や土手には手つかずの自然が多く残されていました。いうところの「多様な自然」が残されていたのです。
 しかしながら、上流や中流のコンクリート護岸は急速にその数を増やし、現在ではそれらを見ない河川は日本全国どこにも無いとさえ言える状況です。
 ところが、残念なことに、治水を目的としているはずのそれらコンクリート護岸はその本来の目的を果たすどころか、逆に、それに反する弊害を上流中流のみならず海岸にまで及ぼしているのです。
 つまり、上流や中流のコンクリート護岸は間違えた工事方法なのです。 この「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法」は、それら間違えた護岸方法を正し修正変更させる事もその目的としている工事方法です。
 ですから、新たに考案したこの工事方法は現在のコンクリート護岸の岸辺が自然状態の岸辺ではない事を、そして、コンクリート護岸が間違えた工事方法であること前提にしていると言えます。
 以下の記述では、河川上流中流での土砂流下の規則性を説明して、コンクリート護岸が治水の目的に合致していない事を明らかにします。

(3)上流や中流の土砂流下の規則性
 以下の内容は「河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える」において詳細に説明していますので、ここでの記載はその概要を簡単に記したものとなっています。その内容を詳しく論理的に説明している「河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える」を是非ともお読みくださるようお願い致します。
(a)上流や中流の土砂流下と、水の濁り
 河川は、水だけでなく土砂も流下させています。降雨によって増水した時には多くの土砂が流下します。
 河川で見られる茶色の濁りは、様々な土砂の間に潜んでいる小さな粒子が水中に流れ出ているからで、濁りが強い時ほど土砂の流下量が多いと考えられます。 実際、規模の大きな増水の時の濁りは通常の増水の時のそれよりも酷いのです。つまり、水流が多いほど土砂流下量も多くなり、増水が無いときの土砂流下量は少ないのが普通です。
 私たちが普段訪れる上流や中流では、濁りが無い透明できれいな水が流れていることが多く、増水によって濁りが発生したとしてもそれらは容易に消え去るのが普通です。 もちろん、増水が無いときの水流が透明であることは当たり前の事です。濁った流れの景勝地を訪れたり、濁った流れの脇でバーベキューを楽しむ人は多くはないでしょう。
 そのように、流れが透明な事が多い上流や中流であっても、ひとたび、数年や数十年に一度程度の規模の大きな増水が発生すればこれらの事情は全く異なってしまいます。 水量が元の流れに減少したとしても、濁りが容易に消えないことも多くあります。
 増水が治まった後でも、少しの降雨があれば濁りが直ぐに生じてしまいます。そんな状況はある程度の期間継続して発生します。つまり、僅かな増水でも容易に濁りが生じてしまう期間が続きます。
 それでも、降雨がある度に濁りの発生の程度は少しづつ少なくなり、やがては少しの降雨では濁りが発生しなくなります。 土砂が大量に流下した規模の大きな増水の後で、元のように濁りが容易に発生しない状態になるまでには、何年かの月日の経過を必要とするのが普通です。

 上流中流での増水の後で濁りが無くなるのは、濁りの元である土砂が流下してしまったからであると考えられます。しかし、それだけではこの現象の全てを説明したことにはなりません。 上流部に土砂崩れや土石流が無かったとしても、増水の規模が大きくなれば多くの土砂が流下するのです。
 言い換えると、通常の増水の場合では河川にある土砂が流下して行かない仕組みがあり、その仕組は、規模の大きな増水の時に限って多くの土砂を流下させるのです。 ですから、それは、規模の大きな増水が発生しない間は、上流や中流に存在している土砂を長期間に亘って堆積させ続けている仕組みでもあると言えます。 この仕組みは、様々な大きさの土砂が大量にある上流や中流であるからこそ生じている現象です。

(b)流下する土砂と流下しない土砂
 河川では、水流に接した土砂であり、同時に水流によって流下される大きさの土砂に限って流下しています。 水流に接していない土砂や、その場所の水流の強さによっても流下しない土砂が流下することはありません。そして、水流のそれぞれの場所での流れの強さはその場所の傾斜と水量によっています。 また、河川の水量もその時々の降雨量によって変動しています。
 この、幾つかの条件下における選択的土砂流下とでもいうべき現象は、石や岩の多い上流や中流では何処でも発生している事です。

 水量が少なくても傾斜が強い上流部では、小さな土砂は流され大きな石や岩が多く残されています。 水量が多くても傾斜が少ない中流域には、小さな石や岩が堆積しても大きな石や岩が流れて来ることはありません。
 また、石や岩の多い河川では、それぞれの場所にある石や岩の中での大きな石や岩の大きさは、上流に至るほど大きくなるのが普通です。 これらの現象も、選択的土砂流下作用の現われであると考えられます。これらの現象を簡単に言うと、大きな土砂ほど流れ難く小さな土砂ほど流れ易いと言えるでしょう。

 河川上流や中流では流れるべき土砂が流下してしまえば、流れの中に残されているのは通常の増水では流下して行かない大きさの石や岩だけです。 流れの強い場所であるほど、それらの石や岩の大きさは大きくなっています。そして、それらの石や岩の底あるいは上流側や岸辺側には水流に接していない土砂が堆積しています。
 透明な流れの底や岸辺に見える石や岩は、それらを移動させるほどの水流が発生するまで流下することはありません。 ですから、上流や中流の流れの底や岸辺にある石や岩は、それらの底や上流側や岸辺側にある土砂の流下を制限していると言えます。 流下を制限されている土砂はその大きさも様々で、その中には濁りの元である小さな粒子も多く含まれています。 この構造が、上述した、河川上流や中流の普段の流れが透明であることの仕組みです。
 透明な流れの底や岸辺に見える石や岩は、数多く並ぶことによって流れの傾斜を形成しています。また、それらの石や岩が重なり合えば段差を形成します。 流れの中に石や岩が並んでその真下の土砂の流下を防いでいる構造を、私は「自然の敷石」と呼ぶことにしました。 また、重なりあって段差を形成して、その上流側や岸辺側の土砂の流下を防ぐ構造を「自然の石組」と呼ぶことにしました。

(c)「自然の敷石」と「自然の石組」
 土砂崩れや土石流や大増水によって、それぞれの場所に流下して来た土砂であっても、その全てが下流に向かって流下するのではありません。様々な要因によって河川に流入した土砂の内のかなりの分量は、 自然が形成した「自然の敷石」と「自然の石組」によってその流下を押し止められています。それらの土砂は「自然の敷石」や「自然の石組」が破壊されない限りその場にとどまり続けます。
 河川では、上流に至るほどそれぞれの場所の高度が高くなる現象が生じていますが、それは「自然の敷石」と「自然の石組」の作用によるものです。 ですから、石や岩が大きくまたその数が多くなる上流ほど急激にその高度が高くなっています。
 この「自然の敷石」と「自然の石組」を形成しているのは、自然に存在している石や岩であり、その構造は自然の水流が作り上げたものです。

 「自然の敷石」や「自然の石組」は、土砂の流下を制限するだけでなく水の流下も遅らせています。川底や岸辺にある石や岩は水流に対する障害物です。 水底や岸辺の石や岩には、流れの方向を変更させ、或いは遅らせる効果があります。この作用は全く僅かなものですが、石や岩が大きくなるほどその効果が大きくなります。 砂や小砂利などにはその効果がほとんどありません。
 これらの効果は、上流や中流でも時折設置されている三面コンクリート張りの水流と比べれば明らかです。 コンクリート張りの水流では水の流れは傾斜に従って一様に流れるばかりで、途中で滞ることはありません。また、それらの場所に石や岩がとどまる続けることもありません。
 河川の流域の形状は、大小の枝を幾度も分けた先に葉を付ける広葉樹の形状と似ています。ですから、自然の石や岩による治水的効果は決して少ないものではありません。 河川には多くの支流があり、そのまた支流もあれば、そのまた先には多くの沢もあるのです。

(d)それぞれの場所にある大きな石や岩
 石や岩の多い河川のそれぞれの場所にある大きな石や岩はその大きさが大きいほど流下し難いのです。 同時に、それらの大きな石や岩は上流ほど大きくなっているのが普通ですから、 それぞれの場所にある石や岩の大きさが上流に至るほど大きくなっている現象は、多くの人に知られ、また長い年月に亘って継続している現象です。
 たとえば、上流にある軽自動車ほどの大きさの岩が中流にまで流下することはありません。中流にある一抱えほどの石や岩が下流にまで流下することもありません。
 河川敷にある石や岩の大きさが上流ほど大きくなる現象を私たちが容易に知ることが出来るのは、それぞれの場所の大きな石や岩が長い期間に亘って移動しないからであり、 それらの大きな石や岩が数多くある石や岩の中で目立っているからだと考えられます。

 また、河川や河川敷にある大きな石や岩は岸辺にあることが多いのです。
大きな石や岩が移動流下するのは規模の大きな増水があった時だけです。そのような時でも大きな石や岩は流下し難いのですから、流れの弱い岸辺に至れば移動を止めて岸辺にとどまります。 規模の大きな増水の機会は多くはありませんから、大きな石や岩は長い期間に亘って岸辺にとどまり続けます。
 岸辺に大きな石や岩が集中してあることは多くはありませんが、所々に大きな石や岩がありその周囲に多くの石や岩やその他の土砂が堆積している事は多くあります。 それらの石や岩も、上述の「自然の敷石」や「自然の石組」を形成していることが多いのです。 それぞれの場所にある大きな石や岩による「自然の敷石」や「自然の石組」は流下し難く、それらより小さな石や岩による「自然の敷石」や「自然の石組」は流下し易いと言えます。 大きな石や岩はそれ自体が既に流下し難い大きさであるからです。
 河川を流下する水は、岸辺にある大きな石や岩によってその流路を制限されていることが多いと言えます。小さな石や岩はどの場所にあっても流下し易いのです。 岸辺にある大きな石や岩は水流の位置を定め、陸地を水流から護っています。

(e)自然の治水的機能
 上述したように、河川上流や中流の石や岩は、それらが多くあり、「自然の敷石」や「自然の石組」を形成することによって、自然の治水的機能を保っていると言えます。
 上流や中流の石や岩は、それらをも含む多くの土砂が増水の度ごとに下流に向けて流下することを防ぎ、山地の侵食が急激になる事を防いでいます。 また、それらの石や岩は、山地から海へ向けて流れ下る水の流れを穏やかなものにして急激な増水と急激な減水を防いでいます。 これら河川上流や中流の石や岩の働きは、明らかに治水的機能であると言えます。
 もしこれらの機能が無ければ、山地は急激に侵食され、水流は急激に増加して急激に減少するので、河川流域の地形的的変容の有様は甚だしいものになってしまうでしょう。 人間を始めとする動物や植物の棲息生育環境も安定することなく、日本の山河を豊かで多様なものに保ち続ける事も出来ません。

(4)コンククリート護岸と「自然の敷石」「自然の石組」
(a)コンクリート護岸と岸辺に続く岩壁
 コンクリート護岸は、上述の、岸辺にある大きな石や岩を流下させてしまいます。ですから、岸辺やその周囲に形成されていた「自然の敷石」や「自然の石組」も破壊してしまいます。
 コンクリート護岸が、その周囲にある石や岩を流下させてしまう現象はコンクリート護岸の建設直後には分からない現象ですが、 5年10年を経過すれば、誰でもが容易に知ることが出来る現象になります。また、この現象は年月を経るほどにその程度を深化させます。

 コンクリート護岸がその周囲の石や岩を流下させてしまう現象は、上流で、その岸辺が岸壁である場所での現象と同じです。 上流で岸辺に岸壁が続いている場所では、その前の水流は深く掘れて、その底にあるのは砂や砂利であることが多いのです。 その底に石や岩があったとしても、それらの石や岩は次の増水の機会に流下して行きます。岩壁の前の流れの底にいつまでも残り続けるのは、特別に大きな岩だけです。 特別大きな岩は規模の大きな増水の時でも移動することがなく、いつまでもその場所にとどまり続けます。
 上流でその岸辺に岸壁が多い河川は、急激な増水が発生することが多く、その減水も急激なことが多いのです。それらの河川では、釣り人や登山者の遭難が時折伝えられます。
 コンクリート護岸は岸辺に長く続く岸壁と同じです。石垣による護岸も、コンクリート護岸と同様に岸辺の岸壁ですが、コンクリート護岸ほど長い距離に亘って建設されていることは多くありません。

(b)石や岩を流下させるコンクリート護岸
 コンクリート護岸はその周囲の石や岩を容易に流下させてしまうので、 その建設以前に岸辺にあった石や岩は流下してしまい、それまで形成していた「自然の敷石」や「自然の石組」も消失してしまいます。 コンクリート護岸の周囲の石や岩はただ流下し易くなるばかりで、上流から流下して来る石や岩が新たな「自然の敷石」や「自然の石組」を形成することも困難です。
 「自然の敷石」や「自然の石組」が消失することは、それらがその底や上流側や岸辺側に長い間維持していた土砂を不必要に流下させることであり、 新たな「自然の敷石」や「自然の石組」が形成されないことは、上流から流下して来る土砂が周囲にとどまることを無くします。

 コンクリート護岸の周囲から「自然の敷石」や「自然の石組」が無くなれば、土砂の流下はとどまる事が無く、周囲の土砂や上流からの土砂は増水の度に流下し続けます。
 コンクリート護岸の前の流れは小さな土砂ばかりになり深く掘れてしまう事が多く、その周囲の川床も低下させてしまいます。 ですから、コンクリート護岸の前にコンクリートの岩盤を設置したり、流れの所々に小さな堰堤を幾つも設置することも多くあります。
 コンクリート護岸は、長期間堆積され維持されていた上流中流の土砂を不必要に流下させる構造物であり、穏やかに流下していた水流も急激な増水と急激な減水に変えるものです。

(c)コンクリート護岸の弊害
 歴史的な長い期間に亘って、土砂と水の流下を自然に穏やかなものに維持してきた上流や中流に、コンクリート護岸が短期間に数多く建設されれば、 河川全体に及ぼす影響は大きなものとならざるを得ません。そして、その影響は河川のみならず海岸にまで及んでいます。

 それまで、規模の大きな増水の時に限って多くの土砂が流下して来た中流部に、小規模な増水の時でも土砂が流れて来るようになります。 当然、上流からの土砂流入量は下流への土砂流出量よりも多くなります。なぜなら、それぞれの場所にある大きな石や岩は容易には流下して行かないのですから。 つまり、中流部への土砂堆積量が増加します。
 中流部での川床は高くなり氾濫の可能性は大きくなります。各地の河川の中流部で堤防のかさ上げ工事が行われていますが、それでも、今まで氾濫のなかった中流の箇所での氾濫が増加しています。

 上流や中流に余りにも多くのコンクリート護岸が建設されてしまったので、河口から流れ出る水流でも急激な増水と急激な減水が発生しています。 以前は、穏やかな増水と穏やかな減水によって、流れ出る砂が岸辺近くの浅い海底に堆積することが多かったのですが、 急激な増水と急激な減水によってそれらの砂の多くが岸辺から離れた深い海底に堆積するようになりました。
 岸辺近くの浅い海底に堆積した砂だけが砂浜を形成します。波によっても陸地に戻されることの無い海底深くの砂は砂浜を形成することが出来ません。ですから、各地の砂浜が侵食されています。

 大量のコンクリート護岸の建設が、河川の中流や海岸に悪影響をもたらしている事は間違いのないことですが、それは、コンクリート護岸のみの問題ではありません。 ダムの間違えた放流や、多くの砂防堰堤もまたそれらの弊害の原因です。言い換えると、現在の日本国土の荒廃の原因の一つとして、上流や中流のコンクリート護岸の問題があると言うことです。
 コンクリート護岸を建設することは、自然が本来持っていた石や岩による治水的効果を失わせるものであり、流域全体に弊害をもたらす、治水の方法として誤った工事方法であると言えます。

 念のため申し添えますが、ここに記述している事柄は、河川上流や中流のコンクリート護岸のことであり、下流部のそれではありません。 水量の増加と土砂の流下量の増加とがほぼ比例していると考えられる下流部のコンクリート護岸は、優れた治水方法であると考えられます。

(5)コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法
(a)土砂流下の規則性とこの工事方法
 この工事方法ではコンクリート護岸の前に「杭」を埋設します。その「杭」に大きな石や岩をとどめる事によって、流下して来る石や岩やその他の土砂を、とどめた石や岩の周囲に堆積させます。
 これによって、コンクリート護岸の前であっても岸辺に自然の石や岩が堆積するので、コンクリート護岸の底が侵食されることも無く、護岸の前から土砂が不必要に流下することも無くなります。
 もちろん水流もコンクリート護岸から離れますから、コンクリート護岸自体の損壊の可能性も少なくなります。 そして、「杭」を設置した場所だけでなく、その周囲全体でも土砂の不必要な流下が無くなります。
 言い換えると、この工事方法は、石や岩をとどめる「杭」の周囲に「自然の敷石」と「自然の石組」を形成させる工事方法です。

 コンクリート護岸が周囲の石や岩を流下させたとしても、河川の石や岩が上流ほど大きくなる事に変わりはありません。それらの石や岩が下流のどこまでも流下する事はありません。 それぞれの場所の大きな石や岩が流下し難いことも変わりありません。
 石や岩が幾つかあればその周囲に石や岩がとどまり易くなる事も普通のことです。現在の技術であれば、石や岩をとどめる「杭」を河川敷に設置することに大きな問題があるとは思えません。

 注意しなければならない問題は一つだけです。
 「杭」によってその場にとどめる石や岩の大きさは、その付近にある中で大きめな石や岩でなければなりません。大き過ぎても小さすぎてもいけません。 その周囲にある中で大きめな石や岩だけが「杭」によってとどめる石や岩の大きさとして相応しいのです。
 その周囲にある中で大きめな石や岩はその大きさの故にそれぞれの場所から容易に流下して行かないのです。 コンクリート護岸の岸辺からそれらが流下してしまったのは、コンクリート護岸が出来たからです。 コンクリート護岸が出来なければ、それらの石や岩はそれらの場所にいつまでもとどまり続けたはずです。
 ですから、「杭」によってその場所にとどめる石や岩の大きさは、その周囲にある中で大きめな石や岩であることになります。
 「杭」によってその場にとどめる石や岩の大きさががその周囲にある中で大きめであることは、この工事方法を施工する場所ごとにその大きさが異なることを意味します。 この場合、それぞれの場所にとどめる幾つかの石や岩の大きさは厳密に同じ大きさである必要はありません。現実の河川の岸辺にある大きな石や岩の大きさも厳密に同じ大きさではないのです。
 「杭」によってその場にとどめる石や岩の大きさの問題は施工するそれぞれの現場で解決する問題です。 そして、その最良の解決策はその河川が実際に示してくれるでしょう。その具体的な例を「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(3)写真」で示しています。

 この工事方法は、コンクリート護岸の欠陥を修正し補う事を可能にする工事方法です。 また、この工事方法は河川の土砂流下の規則性に従った工事方法ですから、コンクリート護岸が設置されていない場所であっても全く問題なく利用出来る工事方法でもあります。

(6)新たな工事方法と特許の取得
(a)特許の取得
 この新しい工事方法は、特許の申請とその審査請求を行いました。しかし、残念なことに、いや不可解な事に、特許を認められませんでした。 特許審査官による通常の審査において特許が認められることが無く、特許庁の最後の判断である「審決」においても認められる事はありません。
 さらに、知的財産高等裁判所への「審決取消請求事件」の提訴でも認められることなく、また、最高裁判所でも認められませんでした。

 特許を取得する際には、その製品やその方法が以下の要件を満たしていることが要求されています。
その製品やその方法が、自然法則に従ったものであること。その内容が明瞭であること。その内容が従来にあるものと同等でない事。 その内容が、従来よりある製品や方法から容易に想到できないものであること。
 これらの要件は同時に満たされていなければなりません。一つでもその要件を満たしていなければ、特許が認められることはありません。 また、その製品やその方法が社会にとって有用であるか否かは、要件とはされていません。その判断は世間が行うものです。

 私は、この工事方法が特許に値すると考えています。
河川の護岸工事や水制の技術において、杭を用いたり石や岩を用いる工事方法は従来からありました。 しかしながら、石や岩の大きさが上流に至るほど大きくなる事や、それぞれの場所にある大きな石や岩が容易に流下しない事を適用したり、杭によってとどめる石や岩の大きさを規定することはありませんでした。
 さらに、流下し難い大きな石や岩が岸辺あることが多く、それらがその他の土砂と一緒になって岸辺を水流から護っている事を適用させた工事方法はなく、 杭と石や岩を用いた構造によって新たな土砂が堆積して岸辺を形成することに言及した工事方法も無かったのです。 そして、それらを容易に想到させる工事方法もありませんでした。

 新しい工事方法のこれらの考え方は、河川上流中流の土砂の流下の仕方を解明できたからこそ出来たのであり、新しい工事方法はただの思い付きでは無いのです。
 言い換えると、従来の護岸工事や水制の工事では、水流について考察し対応することはあっても、水流によって生じている土砂の流下を制御する考え方はありませんでした。 そして、そのことによって水流を制御する考えも全く無かったのです。 このことが、新たな工事方法と従来の工事方法とでの最大の相違点です。

(b)特許庁の主張
 特許庁の「審決」の判断は以下の通りです。
第一に、新しい工事方法の内容が明確でなく曖昧であること。これは明瞭性の問題と言います。
第二に、既にあった工事方法と同一である。これは新規性の問題と言います。
第三に、既にあった工事方法から容易に想到できる内容である。これは容易想到性の問題と言います。

 私は、知的財産高等裁判所に対して、上述の判断が間違いであり不正であることを主張しました。この裁判においては、原告(私)と被告(特許庁)のそれぞれの主張は全て文書にて行われています。
 ですから、特許庁のこれら個々の主張について、私は逐一説明し反論した文書を提出しています。また、特許庁もそれに対する反論の文書を提出しています。
 また、最高裁判所での訴訟もほぼ同様の手続きで行われています。

(c)特許審査と裁判の資料の公開
 私は、特許の審査と裁判でのお互いの文書のほとんどすべてをWEBで公開しています。 特許認可に関わる実際の書類や、現実に生じているとんでもない状況について、より多くの皆様に知って頂きたいと考えているからです。
 特許の書類と聞いただけで多くの人が遠慮するかも知れませんが、これらの書類に限って言えばそんな風に考える必要はありません。この章「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(1)概要」 を読んだ人なら誰でも容易に理解できる文章のはずです。

 その論述の対象はこの章が対象としている内容と同じですから、記述内容はこの章以上ではありません。技術やその詳細に関する記述は多くはありません。 問題となっているのは、過去の河川工事方法の考え方であり、この新しい工事方法の考え方です。
 特許庁の記述の中には、一部解り難い或いは専門的な言い回しもありますが、常識的な判断で理解できる事柄に過ぎません。 まして、専門用語も法律用語もほとんど承知していない私が記載した文章は、問題なく理解出来るものと思います。

 私が特許庁と知的財産高等裁判所での書類を全て公開しているのには訳があります。様々な問題の解決に当たってなによりも重要であるのは、事実を正確に把握して理解することです。 それが出来てこそ、問題は解決出来るのです。解決しなければならないのは、上流中流の残念な工事の問題だけではありません。特許庁の審査においても全く残念な状況が存在しているのです。
 この章「コンクリート護岸に自然の岸辺を取り戻す工事方法(1)概要」を読んで理解した人なら、特許庁の問題も理解できるものと考えているからです。 そして、出来るだけ多くの人にそれらの現実を理解して頂くことによって、日本国の閉塞的状況の一部であるそれらの問題を解決したいと考えているからです。

 裁判資料を公開しているページは以下にあります。
「特許取得の実際と、特許庁の不正の実態」

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