「堂士お兄様」 澤荼がまっすぐに堂士を見上げる。小さな澤荼のその不自然な恰好に、堂士は膝を折って澤荼の視線に合わせた。 「さようなら。最期の挨拶はきちんと澤荼の顔を見ながら言いたくてね。だからここに来たのです。そして、澤荼に一言謝りたくて、君に許してもらいたくて、会いに来たのです」 「堂士お兄様、澤荼は、私は、堂士お兄様をお恨みしていませんわ」 澤荼がポロポロと涙を零した。 「澤荼、ありがとう」 と堂士は澤荼の頭の上に手を置いた。 「澤荼、初めて会った時も、そして最後に会う時も、君は涙を流していますね。君の心からのその気持ちは、私に優しさを与えてくれます」 「堂士お兄様、待っていてくれる人がいるのですね。その人に会いに行くのですね」 澤荼が首を振った。 「やっと、許しが貰えそうですからね。澤荼、私には希望が一つしかありませんでした。でも、その希望は5年前になくなってしまいました。澤荼、希望はたくさん持ちなさい。それが多いほど、きっと《力》のことを忘れてしまえるでしょう。誰も、他人を責めることは出来ません。完璧なモノなどあり得ないのですから。君の未来が光とともにありますように。君がいつも光の中を歩けますように。私はもう君を守ることは出来ないけれど、私の願いは君が私を覚えているかぎり、君の心の中に存在します。君がまだ4歳の子供だから、この言葉を言うわけではありません。過去を振り返るより、未来を見つめなさい。そして、君が本当にその《力》を使いたいと望むのなら、それが君の生き方です。澤荼、それは誰にも否定出来ない、君だけの生き方だから」 そう言って堂士は微笑んだ。澤荼はごしごしと袖で涙を拭った。 「堂士お兄様、私に会いにきてくれてありがとう。ありがとう」 澤荼が目を真赤にして言った。 「私が堂士お兄様を送るわ。もう、私しか出来ないから。そして、堂士お兄様はそれを望んでいるのでしょう?」 堂士が澤荼の頬をそっと挟んだ。 「ありがとう、澤荼。私も君に会えて良かったよ」 堂士が言う。澤荼が精一杯腕を伸ばして、堂士を抱き締めた。ふわっと澤荼から靄のようなものが立ちのぼる。それを祥吾は見た気がした。
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