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堂士は土師家の離れに戻っていた。
澤荼の夢に出てきた女の人は誰だろう。それを堂士は考え続けていた。自分は彼女を見たことがあるような気がしていた。それは確かだ。でも、どこで? いったい、いつ?
堂士はハッと気づいた。でも、とその考えを振り払う。それは、他人の空似ではないのか。堂士は自分の頭に浮かんだ名前を振り払った。そんなことは、あり得ない。きっと違う。澤荼の夢の中の女の人が、寒河葵だなんて。
堂士は首を振った。そして溜め息をつく。だが、寒河葵の名前は、完全には堂士の脳裏から消え去らなかった。
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