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 寒河家。
 葵と結婚し、寒河姓を名乗るようになった芳宜であった。32歳になり、当麻と寒河の人脈を使える立場にあった。葵は芳宜より3歳年上の35歳であった。そして二人の目下の悩みは、子供が出来ないことであった。特に、葵にとっては。波豆の血筋を絶やしてはならない、それは一種の強迫観念であった。自分では気づかないことだったが。
「葵、病院へ行ってみようか」
 芳宜が言う。え、と葵は顔を上げた。
「私も子供が欲しいと思っているよ、葵。だから、一回検査を受けてみないか」
 葵が少し顔をこわばらせた。
「芳宜さん、少し恐いですわ」
 芳宜が葵をそっと優しく抱いた。芳宜にとって葵は、何にも代えがたい存在なのだ。一生守り続けていく、それを誓っている芳宜であった。
「大丈夫だよ、私がついているから。いいね、葵」
 葵が芳宜を見上げて頷いた。
「あと、一ヶ月ほどは少し暇がないから、その後に行こうか。それで構わないだろ」
「ええ、芳宜さんの言う通りにします」
 葵が芳宜の胸に顔を埋めた。
(確かに、検査は必要かもしれない。波豆の血筋を絶やすことは出来ないのだから。どちらに原因があったにしても、きっと解決策はあるはずだわ)
 冷やかな表情で葵は考えていた。芳宜がそれに気づかずに、葵の長い髪の毛に触れていた。


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