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寒河家。
葵はフッと目を開けた。その口元を少し緩める。
「見えたわ。まだ朧気だけど、でも大丈夫。すぐに判るでしょう、邪魔者が誰なのか」
葵はそう言って立ち上がった。
「小さかったわね。子供かしら。《力》は大きい。でも、使い方を知らないようですね」
フフフと葵は笑った。やがて、それが高らかな哄笑に変わる。
「いいですわ。その《力》、私のものにしましょう。波豆のものにするのです」
葵の長い髪が優雅に揺れる。波豆に出来ないことはないのだ。それを確信している葵であった。だが、葵の表情が少し曇る。
「その隣に立っていた背の高い人は誰かしら。私が会ったことがある? まさか?」
すぐに葵の表情が戻る。冷たく冴えた美しさであった。
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