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 次の年、永覚は結婚をし、祥吾が生まれた。そして、それから少し経って諸見は石蕗に出会ったのだった。諸見には寒河家の葵という許嫁がいた。葵が生まれた時に、当麻家に嫁ぐことが決まっていたのだ。諸見にとって、彼女は妹のような存在であった。当麻家を継ぐ以上、彼女は自分の伴侶になるのだ。諸見はそれを葵に拒否してもらいたかった。幼い頃にそれを決めさせるのではなく、彼女が自分の意志を持てる時期になった時に、それを決めて欲しかった。だが、葵にそれを決めてもらう前に、諸見は石蕗に出会ってしまったのだ。
 諸見は葵を嫌いなわけではなかった。だが、石蕗に出会ったことによって、それを受け入れることが出来なくなったのだ。石蕗が、自分の伴侶である、一生の伴侶であると、それは確信であったのだ。
 そして永覚との友情も、石蕗との愛情も、それを育むことが出来たのは、一生がいればこそであった。諸見は一生にどれだけ助けられたであろうか。それを諸見はずっと忘れることが出来なかった。そう、一生が死んでからも。


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