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 秋であった。諸見の一番好きな季節であった。どんなにその風景が美しくとも、日毎に秋は深まり、そして淋しさを増していく。春の桜の、潔いまでの切なさとは、また違った哀しいまでの切なさがある。それが、諸見は好きだった。それに自分を重ねていたわけではない。だが、彼のことを思う時、それにふさわしいと思ってしまうのは間違いであろうか。
 当麻粃の長男である諸見は、父親が満足出来るだけの息子に育っていた。少なくとも粃はそう思っていた。まさか、この数年後に見事に裏切られることになろうとは思ってもみなかった。諸見はその瞬間まで、真実を隠し続け、粃は気づくことがなかった。


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