檀(まゆみ)は25歳、柊と同い年であった。秋筱(あきしの)家の次女として、柊の同級生として育った。柊と並んでもどうにか見劣りはしない、という程度ではあるが、それは柊の顔だちが整っているからであって、一般的には特上の美人、といえるのである。 柊とは、幼等部からの同級生で、親同士の付き合いもあって、他の異性とよりは、多くの時間を一緒に過ごしていた。別に親同士が決めたわけではないが、本人同士は一緒にいるのが、将来においても自然なように思っていた。いや、檀はそう思っていたかもしれないが、柊はどうだったであろう。 彼は当麻傍系なのだ。槇が三人の子供たちに、当麻傍系の意味を話した日から槐が始めて槐を名乗った日まで、そして、その後と、柊にとって自分に伴侶が必要かどうかは、己が《当麻》を継ぐかどうかに関係していた。そして、槐が継ぐものと思った時から、槐から継いで欲しいと言われた日までは、自分には将来がないことと思っていたし、それから後は、自分には伴侶が必要だと考えなければならなかった。 柊にとっては、その相手が檀でなければならない、というものではなかった。もし、柊が《当麻》を継ぐとなると、その伴侶は、次代の《当麻》候補を孕んでもらうためのただの入れ物でしかなかった。柊は槇(まき)から当麻傍系の意味を聞かされた時から、そんな風に考えていた。それより以前は、柊にとってどうだったのか。それは、本人の口から出ることはなかった。 他に捜すのが面倒だっただけなのか、結構気に入っていたのか、柊は檀を伴侶にしようと思っていた。結婚はまだしていなかったが、秋筱家にも了承を得て、檀はすでに柊と一緒に住んでいた。 そして、昨日12代から電話があった時点で、柊は諸見の始末が終わったら、檀と結婚しようと決心した。それは、《当麻》を受け継がすためではなく、それはもう、諸見を始末してしまうと、何の意味もなくなるのだから、そのためではなく、ただ、檀との子供を作ろうとただそう思っただけであった。当麻の意味がなくなると、当麻傍系は消滅してしまうのかもしれない。それでもよかった。柊は自分の子供に《槐(かい)》の名を受け継がせたかった。それが一時のことでもよかった。柊にとって、《槐》の名は、どうしようもなく切なく、どれほどまで大切にしたい名だろうか。それほどの意味を持っていたのだ。 「子供だけでも先に作ることにしてみましょうか」 柊は呟いた。《当麻》を継げなかった槐の代わりに、《槐》の名を継いだ子供に、《当麻》を継いでもらう。そんなことも考えてしまう柊であった。 「え、何かおっしゃいました?」 柊は窓際で椅子に座っている。それより少し離れて、檀は椅子に座って刺繍をしていた。 「檀、子供が欲しいと言ったら、どうします」 檀は思わず頬を染めた。 「まあ、柊さん。私たちまだ結婚していないわ」 その言葉に柊は優しく微笑んだ。そして檀の側に寄った。 「檀、私は私の伴侶は、あなたしかいないと思っているのですよ」 と柊は言って、檀の手にそっと口づけた。 「わ、私もそう思っていますけど、でも……」 と檀は恥じらった。柊は軽く檀の唇に触れた。 「あなたと私の子供が早く見たいのです」 柊の言葉に、檀は目を閉じて頷いた。
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