◇◇
受話器からいつものように同じ声が流れ出る。ただ、いつもと違い、その声に焦りのようなものが混ざっていると感じるのは、気のせいだろうか、とふと思った。
「至急に始末してもらいたい」
向こう側の声はそう言って、ゴホッと一つ咳をした。
「誰です?」
若い声であった。受話器を持つ手は、女性と見まがうほどに細くて白い。甘いマスクのスーツの良く似合う、好青年であった。この年、25歳になる当麻柊(ひいらぎ)であった。電話の声は、一瞬、口を噤んだようだ。
「諸見だ」
呟くような声が流れ出た。柊は甘いマスクをさらに甘く崩した。
「諸見さんですか」
疑問ではなく、確認の口調で言った。当麻からの依頼に対して、質問を発することはなかった。それを許されていないわけではなく、ただ、疑問を持つことがない、という理由であった。
「では、よろしく頼むぞ、我が当麻の影よ」
電話の声は、いつもと同じ言葉を吐いて、電話を切った。柊も受話器を置く。
「12代の馬鹿さかげんには呆れますね」
つくづく呆れた、という色を込めて、柊は呟いた。そして柊は哀しげに首を振った。
←戻る・続く→