「柊、一つ聞きたい。お前と槐との関係とはいったい何だ。それを教えて欲しい」 柊は左手で髪の毛をもてあそんでいた。その目をフイッと槇に向ける。 「嫌です」 と柊はにべもなく言った。 「私はあなたに教えたくありません。槐に聞いたらどうですか。この状態で聞けるとは思えませんが……」 面白そうに柊は言った。 「でも、私が何故あなたを嫌っているか、ということは教えてあげてもいいですよ。まあ、あなたには判っているかもしれませんが。まず第一に」 と柊は右手の人指し指を立てた。 「《当麻》は、当麻より《力》が強くなくてはなりません。幸いにしてあなたに依頼された仕事は、あなたの手に負えないようなものはありませんでした。だが、あなたの《力》は12代よりも遙かに弱い。そして、13代は12代よりもより強いのです。あなたが当麻の影であることは、当麻傍系にとって、恥なのです。あなたは《当麻》を継ぐべきではなかったが、あなたが《当麻》を継いだのは、私に《当麻》を譲るという意味があるのです。その他には何の意味もないのです」 柊はまたじんわりと力を込めた。 「第二に」 と柊は中指も立てた。 「あなたが少しだけでも、槐に槐(えんじゅ)を名乗らせたことです」 柊は右手を下ろした。 「そのことが、一番の理由でもありますね」 槇は苦しげな顔の中に、皮肉を混ぜた。 「柊、お前はそれほどに槐(かい)が《当麻》を継ぐことが気に入らないのか」 それを聞いて、柊はクスリと笑った。 「そう思っていただいても、結構ですよ」 「柊……」 と槇は己の命をもてあそんでいる息子に不審気な視線を向けた。 「何故、何も話してくれないのだ。お前は何を隠しているんだ」 「お父さん」 と柊はクスクスと笑った。 「お前、ではなく、お前たち、ですよ」 「何?」 柊はいきなり力を強めた。 「もうそろそろ終わりにしましょうか。私も疲れてしまいますからね。あなたの顔も見飽きたところです」 槇はすでに殺されることの恐怖よりも、この苦しみから解放される安堵感を求めていた。 「姉さんや槐が、あなたのことをどう思っているのかは知りませんが、二人があなたに何も話していないことは知っています。まあ、私と槐との共通の話題を除けば、それが何かは知りませんけどね」 柊は槇の額に右手の人指し指を当てた。 「お父さん、私はあなたを気に入りませんでしたけど、でもね、ただの父親としては好きでしたよ。私たちが当麻傍系でなければ、きっと、仲の良い親子になれたと思います。それはかなり魅力的ですね。そう思うと残念です。私たちが当麻傍系として生まれたことが……」 柊の人指し指の先がボウッと白く輝いた。 「そうだな、柊。私は《当麻》として生きなければならなかったし、お前は《当麻》として生きようとしている。私たちが当麻傍系でなければ、普通の親子のように接することが出来たかもな。確かにそれはかなり魅力的だが、私には想像すら出来ない」 柊はにっこりと笑った。 「お別れですね。地獄の底で待っていてください。私も遠からずそこに行くでしょう。そんなにお待たせはしませんよ。こちらの1年は、向こうでは一瞬と言いますからね。きっと会えないわけはないでしょう。同じ父親を殺した者同士として……。そして、今度は当麻傍系としてではなく、ただの親子として生きたいですね。出来れば、代々の《当麻》とともに」 柊の指先で輝いていた白い光が、槇を包み込んだ。その光が消え去った時、その部屋に残っていたのは柊だけであった。 「それでも私は、あなたが、好きでしたよ、槇さん」 柊が呟いた。バタン、と崩れるように柊は椅子に倒れ込んだ。そのままじっと動かない。柊は顔色がなかった。だが、その表情は苦しみではなく、微笑みを表していた。
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