祥吾はその後、アメリカに戻った。
 祥吾は冬野が病死ということに疑問を持たなかった。最後に当麻家に行ったことを運転手のゆみ子に聞いたが、それ以上、そのことに首を突っ込むことをしなかった。
 祥吾はアメリカに戻り、すぐに元の生活を取り戻した。
 その祥吾が、今度はちょくちょく日本に戻るようになって、執事の南部を喜ばせたのだが、その理由は、そう遠くない未来に、彼が娘を抱くことになったからと言っておこう。
 そして、同じくらいの頃に、祥吾は、再び堂士と会うのだ。それは、堂士が20代邑楽としての祥吾の娘に会わなければならなかったからであった。そして、祥吾はその再会を喜ぶことになるのか、哀しむことになるのか。いや、祥吾にとってはそれは一瞬のような再会であった。そして、それは先の話。
 永覚が何故、自分に邑楽を継がせなかったのか、それを、冷静に考えてみた。そして、それらに関わることを止めたのだ。それが祥吾の選択であった。だから堂士にも会おうとはしなかったし(どこにいるかを知っていたわけではなかったが)、当麻家についても調べようとはしなかった。
 祥吾は近い将来、彼の娘、澤荼を連れて日本に戻ってくる。だが、彼の娘に課せられた宿命には気づかなかった。祥吾は邑楽であって、邑楽でないのだ。
 ただ、今は、祥吾は早く元の生活に戻りたかったのだ。
 そして、自分でそうと判っていたわけではないが、日本での用事は終わったのだ。そう冬野の死によって。
 彼がそのことに気づいたのは、ずっと先のことであった。


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