御母衣家を訪れて、一通りのことをすませた祥吾は、明彦に呼ばれた。
 二人は応接室に足を運んだ。
「祥吾殿、邑楽家で働いている美原さんという人のことだが……」
 と明彦は言葉を濁した。
「伯父さん、お祖母様からそのことは聞いています。ほんの先程になりますが……」
 明彦は渋い顔をしていた。
「全くお恥ずかしいことです。まさか、母に孫ぐらいの娘がいたとは……。そうですか、祥吾殿には話されていたのですか。私は、母の遺言状で初めて知りましたよ」
 明彦の表情が苦いものに変わった。
「伯父さん、美原さんは彼女が望む限り、邑楽家の使用人です。それがお祖母様と彼女の願いですから……。もちろん、伯父さんの希望もお聞きしますけど、本人の意思を尊重しますからね」
 祥吾は、真裕美の兄である明彦が、引き取りたいと言い出すのではないか、と思っていた。その可能性の低いことも判っていたのだが……。
「そうか」
 明彦はそう呟いて、他には何も言わなかった。
 祥吾は一瞬、真裕美の顔を思い浮かべたがそれはすぐに消えた。


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