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その部屋の窓辺に立って、女は長い髪を揺らした。
「今日は、予想外の役者が出演してしまいましたね。まあ、脇役に主役が食われるのは、たまにあること。しかし、最後に喝采を浴びるのは主役なのです」
そう呟いて、窓ガラスに映った顔に笑いかけた。
「御母衣家の冬野様、お疲れさまでした。あなたが出てくるとは以外でしたが……。お陰で、少し予定が延びてしまいましたしね。まあ、よろしいでしょう。すべては、この手の内なのですから……」
女は窓を開けた。すぐ側の庭の木槿が藤色の花びらを風に揺らしていた。
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