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それぞれの脳裏に、19年前の出来事が浮かんでいた。
康裕は、車を日陰に停めていた。だが、少しずつ日差しが車の中に入ってきていた。
「野村さん、私は祖父をこれ以上の血を流すのならば、決して許さないでしょう。当麻は当麻以外の者には倒せないのです。そして、未だ当麻13代を誰も継いでいないのです」
堂士が自嘲めいた笑いを片頬に浮かべた。
「そして、その座に一番近いのは、実は私なのだ、ということを、私自身は気づいているのですよ。当麻家の人々は思いもよらないでしょうが」
康裕が再びサングラスをかけると、車を発進させた。
「堂士君」
康裕が長い沈黙を破ったのは、ビルの連立する街並みに入った頃だった。
「でも、私は」
と言いかけて康裕は再び口を閉じた。堂士はずっと無言であった。
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