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「お父様、もうすぐいらっしゃるのですね」
香散見は粃の部屋に入る早々言った。先程は無視されたが、今は粃の回りの見えざる壁はなかった。
(今日はとにかく、待ち人のことに専念することにしましょう)
そう思っている香散見であった。
「どうです、このドレス?」
粃がホウッと香散見を見つめた。
「今日は一段と綺麗じゃな」
そう言って粃は香散見を手招いた。香散見が粃の隣に座る。
「どなたでも一目で落ちますかしら。お父様、いかがです」
香散見がクスッと笑って言った。粃の手がさりげなく裾からするりと入る。
「お父様、いけませんわ。しわになります」
香散見が悪戯っぽく笑って粃の手をつねった。だが、避けようとはしなかった。
「香散見」
と言って粃が香散見の唇を塞いだ。
「戦いの準備じゃ。お前の《力》を少し貰うぞ」
香散見が逆らわずに妖しく笑った。
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