冬野の車は走り続けていた。
 その夢を見たのは、今朝のことであった。
(何故、夢見が当麻家にいる)
 夢見の《力》を持つ家は少なかった。昔はそれほどでもなかったが、同じ夢見の家によって潰されたのは一家や二家ではない。邑楽家はそのようにして生き残った中の一家であった。確かに、夢見の《力》を持つ家は、現在でもまだ何家かあった。だが、邑楽家の《力》とは比べ物にならないほどその《力》は弱かった。そこに冬野は引っ掛かった。
(邑楽家の知らぬ夢見の家がまだあったのだろうか)
 その答は今は出ない。それは、綾歌本人にしか答えられないのだろう。
 邑楽家にしても、夢見はすべての者に出るわけではなかった。邑楽家の夢見は、まず直系であること。そして、女であること。つまり、邑楽を継いだ者の子供の中で、女でなければならないのだ。
 今まで邑楽は途切れたことはなかったが、何代も夢見が出ないこともあった。邑楽が途切れてしまうと、邑楽も夢見も生まれないからだ。
 ようするに、邑楽を継いだ冬野の兄にも、祥吾の父の永覚、そして、祥吾自身も夢見の《力》は全くなかった。だが、祥吾が結婚して女の子が生まれれば、その子には夢見の《力》があるのだ。ということは、冬野には夢見の《力》があるが冬野の子供や孫はいくら女であっても、その《力》は決して現れないのだ。もちろん、邑楽も決して現れない。
 冬野はハッと気づいたように仕切りを開けた。
「ゆみ子さん、邑楽家に行き先を変えてちょうだい」
「はい」
 運転手のゆみ子がチラリと冬野に笑いかけた。


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