冬野は夢を見ていた。
「御母衣家の冬野殿。当麻家に来てはいけない」
 冬野の前に老婆がいた。
「何故」
 と問う冬野に、
「死ぬぞ」
 と老婆がぞっとするような低い声で言った。
「お前は誰です」
 冬野は訝しげに老婆を見た。
「わしは当麻家の夢見、綾歌」
 冬野の目が驚いたように見張られた。
「夢見……ですって。何故、当麻家に夢見がいるのです。何故……」
 綾歌が首を傾げた。
「冬野殿、これは忠告じゃ。お主は御母衣家に嫁いだ身。邑楽家にはもう関わるでない。20代邑楽を継いだ祥吾殿にもそう言われたであろう。そう、《邑楽》の言葉として…」
 冬野がキッと綾歌を見た。
「確かに祥吾さんにはそう言われました。でも私は邑楽直系の娘。御母衣家に嫁いだとはいえ、私は邑楽家の夢見です。何故、お前が夢見なのです。よりにもよって当麻家の……」
 綾歌の顔に不可解な色が浮かんだ。その色をすぐに消すと、
「御母衣家の冬野殿、当麻家に来るでない。これは警告じゃ。死ぬぞ」
 と言った。
「死ぬのは、もとより承知の上です。当麻家と心中ならば、この命安くはありません」
 綾歌が目を開けた。その暗闇に落ちそうに感じて、冬野は目を閉じた。
 そして、夢から覚めた。


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