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堂士の前に綾歌がいた。
「ご招待したいのだが、いかがかな」
「招待? 当麻家へですか」
堂士が少し笑いを含んだ声で言った。
「お主の正体を知りたいのじゃよ、当麻は。今、話してくれてもよいがな」
綾歌の言葉に堂士は無言で応えた。
「どうじゃ」
堂士は、ふっと顔を上げた。
「よく、私の夢の中に入ってこられますね、あなたは」
綾歌がフフッと笑った。
「わしは夢見だからの。わしは実際の世界を見ることが出来ぬ。その代わり、夢見の《力》がある。未来見が本来の《力》だが、他人の夢に入り込むことも出来る。それも、夢見の《力》の一つじゃ」
堂士がふと言った。
「夢見……とは、いったい何ですか。当麻家には夢見の《力》を持つ者はいないはずでしょう。あなたは、当麻家には関係ない人なのですね」
綾歌はその閉じた目で堂士を見つめた。
「何故、それを知っておる。お主は、いったい何者じゃ。どうも、わしは、お主が苦手じゃ。何故、お主の夢には入れるのに、お主自身を見ることが出来ないのじゃ」
堂士はジッと綾歌を見つめた。
「……あなたはすべてを知っているのではありませんか」
綾歌は何も言わなかった。
「会いましょうか、行きましょうか、当麻家へ。あなたが本当にそう望むのなら」
堂士はにっこりと微笑んだ。
「新宿駅に迎えを寄越そう」
綾歌の声が暗闇で響いた。
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