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ほのかなライトの光の輪に二人の姿が浮かんだ。
「綾歌、何を見た」
粃であった。
「邑楽家の若者が、20代邑楽を継いだだけじゃ」
「今度の当主は若かったの」
「芳宜殿より1歳年下だの。邑楽家の当主は」
「まあ、邑楽家など恐るるに足りぬ。しかし綾歌、邑楽は永覚が死んだ時点で息子に継がれなかったはず。何故、今になって邑楽を継ぐのだ」
粃がジロリと綾歌を見た。
「封印が解かれたのじゃ。永覚殿にかけられた封印がな」
「そうか、封印か」
と言って、粃は何、と綾歌を見直した。
「綾歌、封印はかけた本人でないと解けないはずだぞ、誰が解いたんだ。永覚ではあり得ないし、邑楽家の直系は……御母衣家の冬野か」
綾歌が、いやいや、と首を振った。
「解いたのは渦中の人物じゃよ」
「何?」
粃は目を見張った。
「いったい、奴は何者だ。邑楽家に関係があるのか」
「さあな、それは以前も言ったように、わしにも判らぬ。どうじゃ、粃殿、招いては」
「招く?」
綾歌は頷いた。
「本人の口から聞く、か。来るかな」
粃が考え込みながら言った。
「招いてみればよい」
綾歌の手がライトに翳された。そして、静かに暗闇に変わっていった。
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