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「ついに始まりましたね」
女は紅茶のカップから、目を外へと移した。今までの堂士と香散見の戦いを液面に映していたのだった。
「さあ、踊ってくださいね、最後まで。この私の手の上で。波豆は、最後まであなた方を見つめていますわ。そして、最後まで残るのは波豆だけですわ」
女はそう言って、長い髪を揺らした。
プルプル…と、電話が鳴った。
「はい」
と女は受話器を取った。
「え、芳宜さんが? はい、すぐ参ります」
女はそう言って、受話器を置いた。優しげなその顔に、似つかわしい笑顔が浮かんだ。だが、その口から零れた言葉は、冷たいものであった。
「これで、役者が揃いましたわ。波豆のために、一流の俳優ばかりを選びましたから、無様な結末にはなりはしませんね」
パタン、と静かに扉を閉めて、女は部屋から出ていった。
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