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「なかなか……」
香散見の目の前にある鏡にピシリとひびが入る。香散見の美しい顔が、ひびで斜めに傷ついて映った。それだけではなかった。右頬にツツーッと血が流れる。香散見はそれを手で拭い取った。
「使い魔では、全く歯が立ちませんか。なめてはかかれないようですね」
香散見の独り言に応えるように、
「面白いの」
と粃がいつの間にか香散見の隣にいた。
「お父様」
香散見が手に付いた血を舐め取りながら笑いを浮かべた。粃は香散見の頬の傷に唇を当てた。
「風、火を操る……、そして、それはおそらく彼の《力》の一部でしょう」
香散見の口調は嬉しそうであった。
「そして、顔もいい。香散見、嬉しそうじゃな」
粃が後ろから香散見を抱き締める。香散見が鏡を見つめながら艶然と微笑んだ。
「嫉妬ですか」
香散見の言葉に応えるように、粃の手が香散見をまさぐる。
「お会いしたいですね、是非とも」
ひびの入った鏡はそれを映し続けた。
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