同日、市田家から生まれて間もない赤子の姿が消えた。貞信の次男、貞忠の姿が消えたのだ。 数刻後に古井戸の側に貞忠の着物が落ちているのが発見され、みなは誤って落ちたのだろうと捜索を打ち切った。 だが、自分で消えるわけはなく、しかし貞忠はこの日市田家から抹消されたのだ。 少し先の未来に、彼の消えた意味が判るのだが、その時まで兄に当たる吉貞は自分に弟がいたことすら知ることがなかった。 次の年が明けると間もなく、大御所は他界する。それは急であったのだ。それなりの年を取っているといっても、不思議なほどそれは急であった。それに市田邦貞の手が伸びていないとは誰も否定できなかった。もちろん、確認も持てなかったが。そして、それはまた今は関係のない先の話。
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