同じ夜。 その部屋にいたのは市田邦貞、貞信、本郷忠長、慶次であった。 「長信君が大御所に会われたようですな」 忠長の言葉に、邦貞が嬉しそうに唇を歪める。 「これで大義名分が出来たということじゃな」 「まさか、市田殿、長信君を亡き者にするおつもりでは……」 忠長が少し顔色を変えるのに、邦貞が面白そうに見返した。 「本郷殿はそれに反対かの」 「いや……」 忠長は口を噤む。 「長信君はまだよい。西之丸側用人、斉藤堀部を中心とした大御所派を一掃するだけじゃ。羽場外記や湊屋もついでに始末して置いたほうがよいかな」 邦貞の言葉に貞信が頷く。それに慶次が口を挟んだ。 「羽場や湊屋を始末することについては考え直すべきだと思います。松千代君はすでに養子に入られました。羽場がこれ以上どうこうするとは思えませんが」 貞信は冷たく笑う。 「慶次殿は甘いな」 一言言って貞信はまた笑った。 今年ともに二十六歳の貞信と慶次であった。邦貞が老中筆頭、忠長が老中であり、互いの父親の威光もあったが、その手腕は認められていた。そして、自分たちの代になった時に、その父親以上の力を持ち得ようと、そして相手を踏み台にしようと、その戦いはすでに始まっているのだ。 「羽場がわしに従えば別にそれで構わぬがの、羽場はそれを是としないはずだ。目の上のたんこぶを一緒に取り除くだけの話。慶次殿、抜けるのならば今の内かな」 顔は笑っているが、目元は笑っていない。その邦貞に慶次は首を振る。 「市田殿、それで早瀬伝十郎はどうするのです?」 途端、邦貞の表情が苦いものを浮かべた。 「さて、どうするかな」 「市田殿、早瀬を屋敷に出入りさせたのは、何か理由が有ってのことではないのですか。それが何かを教えてくれぬかの」 忠長に邦貞はムスッとした顔を向ける。 「それが何かを知っているのは、爺いだけだ」 「平八郎爺い?」 「そのことはまたでいいでしょう、父上。とにかく、最初の目的を果たすべきです」 貞信が邦貞を助けるように口を出し、邦貞が軽く頷き、他の三人は深く頷いた。
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