やがて、四郎は離れで手紙を燃していた。 手紙は西之丸側用人斉藤堀部から、大御所が四郎に会いたいと言っているとの内容だった。そして、その寿命が尽き掛けていることも添えてあった。 四郎は父親に会いたいとは思わなかった。父親とは思わないようにしようと考えるようにしていた。自分は松平長信の名を捨てた時に、兄も父も、何もかもを捨てたのだ。 だが、ふと目の前に父親の顔が浮かぶ。 7年の月日は、さらに父親を老けさせているだろう。 親不孝者なのは四郎のほうだ。だが、名を捨てた以上、会えるはずなどないではないか。 「すみません、父上」 ポツリ、と四郎は呟いた。 その時、木戸がバタンと開いて、バタバタと足音が近づいてきた。 「先生、こんにちは」 子供たちが庭先に立って部屋の中を覗き込んでくる。彼らは四郎の生徒たちだ。 四郎は立ち上がって、 「さあ、上がって」 と言った。 みんな近所の子供たちだったが、たまにその子供が知り合いの子供を連れてくることもあった。今日も一人新しい顔ぶれが増えていることに四郎は気づく。 「君は?」 四郎の問い掛けに隣にいた、これも最近増えた信太が、 「僕の友達の道助です、先生」 と言ってニコッと笑い、その隣で道助も笑った。 四郎は二人の頭に手を置いて、 「そうか、よろしくな、道助」 と言い、そして、授業が始まった。
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