さて、湯谷寺である。 相月はずっと本堂に座っていた。 (帰ってこられたのだわ) 四郎が6年前、湯谷寺にいた時、相月は10だった。 (でも、私はもう16。私は綺麗になったかしら。あの方の目に留まるほどに……) 相月は暗闇の中でぽっと頬を染める。 その時、 「相月殿?」 と後ろで声がした。相月がビクッとして振り向くと、 「このようなところに座って寒くはないのか。和尚が酒がないか、と言っておった。酒はどこにあるのかな」 と四郎が笑いながら言った。 相月はホッとして立ち上がり掛ける。 「ああ、相月殿はもう寝むがよい。私があとをするから」 「でも」 四郎は明るく笑った。 「随分お淑やかになられたな。昔はあんなにお転婆だったのに」 相月は顔を伏せて、 「私はもう16になりました」 と言った。 「ああ、そうだった。和尚が花嫁姿を楽しみにしていると言っていた。相月殿ならばさぞ美しい花嫁御寮になるだろうな。私も楽しみだ」 「私は……」 と相月が顔を上げる。 それに四郎がにっこりと笑いかけた。 相月は頭を振って台所へ向かいながら、 「お酒の用意は私がしますので、長信様はどうぞ伯父様のところへお戻りください」 と言った。 四郎が離れのほうに戻っていく背を見つめて、 (私は6年も前から、花嫁姿を見せる方を決めているのですわ、長信様) と相月は心の中で小さく呟いた。
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