四人の男たちは黙々と歩いていた。 満月が東の空に顔を覗かせている。 河原に下りると、三人の男たちは四郎を中心にサッと散った。 「お主ら、私に何の用だ? 一介の素浪人の命を狙って何になる?」 四郎の表情は暗い。 「長信君、お命頂戴する!」 四郎の正面の男が言った途端、三人はスッと刀を青眼に構えた。 「その構え……お主ら、やはり公儀か。私はすでに名を捨て浪人になったのだ。私は無駄な殺生は好まん。お主らもお役目大事とはいえ、無駄死にはしたくなかろう」 四郎の静かな物言いに対する答は、三方からの殺刀であった。 不意に相手の視界から四郎の姿が消えた。 それにハッと気づく間もなく、三人はその胴を朱に染める。 ゆっくりと男たちが倒れる中、四郎はゆっくりと立ち上がり、その背をゾクリと震わせた。 (凄い……切れ味だ) 四郎の背がまた震えた。 人を斬ったのはこれが初めてであった。 城を出て以来、ずっと山奥に籠もっていた四郎を追ってくる者はいなかった。 いや、いたのかもしれないが見つからなかった。 だから、四郎がこの無陰刀を自分の身を守るために抜いたのはこれが初めてなのだ。 三人はそれぞれ相当の使い手であったのだろうが、四郎には全く歯が立たなかった。 四郎はそれを自分の腕と思う前に、無陰刀の力ではないか、とふと思う。 どうしてこの時そう思ったのかは判らない。 「先生は……本郷正之は、自分の思いをこの無陰刀に込めたと言われた」 四郎は呟く。 「その思いとはいったい…………」 無陰刀からスウッと刃を伝って、血がポタリと地面に染み込んだ。 「人を斬るもの……。それは、私の歩む道という意味なのか。私が無陰刀を持つ限り、いや、私が長信である限り避けられないのだろうか……」 四郎はそう呟きを落とし、無陰刀を一振りすると歩き出した。 と、河原にほど近い木の陰が動いて、二人の男が現れた。今まで四人の立ち会いをそこから窺っていたのだ。 「とにかくお前は殿にこのことを。私はあの方を追う」 「判った。お前もくれぐれも悟られぬよう」 男たちは互いに頷き合って、一人は四郎の後を追い、もう一人は反対に走った。
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