本郷家の当主は下野守忠長。病気がちだが老中筆頭の市田越前守邦貞に次いでの実力の持ち主である。 嫡子慶次は目付の一人であり、その中でも特に恐れられている人物である。そして、露姫は忠長が目に入れても痛くないほど可愛がっている一人娘であった。 四郎は市田家に向かって歩いていた。 この男、槇原四郎、本名を松平格之進長信という。前将軍家(現・大御所)と老中本郷忠長の従妹雪との間に第三子として出生した。 四郎は幼少の頃からその天稟を発揮し、文武とも半月早く生まれた兄の上を行った。そのため、その兄である西之丸を抑えてまでも四郎を時期将軍家に押す者たちが出てきた。そう、器量だけでなく、他の面でも四郎のほうが上に立つ者として優っていたのだ。 西之丸に将軍家としての器量があると信じていたのは、四郎だけだったのかもしれない。 父から送られた無陰刀だけを持って四郎がその姿を消したのは15の時だった。 そして、今、6年の歳月を経て、江戸に再び姿を現した四郎であった。
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