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「花は、そう綺麗だな。咲いている時はそう思う。だからこの時期のこいつを見るのは好きだ」
そして思い出すように、
「銃は嫌いだな。芸術的じゃない。そう、銃そのものは美しいと感じる。だが、それだけだ。殺しの道具じゃない。あれはただの機械だ」
と言った。
「だから、あなたは銃を使った殺しをしないのですね」
男がゆっくりとマスターのほうを向く。マスターは自分のグラスを洗って、キュッキュッと磨いていた。男の視線に気づいたように、ふと顔を上げる。男の表情は変わっていない。いつもと同じ、顔。
「クリスマス・カクタスを見るのは、辛いです。私は娘を思い出すから。でも、今年だけはこの花が咲くのを楽しみにしていました」
男がグラスに手を掛けて、持ち上げようとし、その手がするりと滑った。おや、と首を傾げる男の体がゆらりと揺れた。男の体が前に倒れそうになり、目の前のグラスを見つめた。
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