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何かムズムズとした感じを受けて、男は電気を消した。目を閉じて、そして開ける。暗闇に目を馴らすことには馴れていた。人の気配がするわけじゃない。だが、何かがそこに感じられた。男は闇に馴れた目で自分の部屋を見回す。何も変わったものはない。と、ふと一つの物に目を止める。女が置いた鉢植え。女は今、買い物に行っていない。
男は鉢植えにジッと目を転じて、そのまま暫く動かなかった。
やがて男は立ち上がって、そして電気を点けた。明るくなる部屋の中の、鉢植えがやけに目立って見えた。男はまだ咲きそうにない蕾をポンと指でつつく。蕾はゆらゆらと揺れた。
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