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「おじいちゃま、桂はどうして、みんなとお話が出来ないの。おじいちゃまのように、桂もみんなを見たいのに」
膝の上に座って、縋るようにしている桂を、蓮はジッと見つめた。
「そう、いつか、きっと、お前にも見える日が来るといいね。でも、見えなくても、話が出来なくても、お前は彼らが大切だね。何となく、感じるものがあるだろう」
桂は蓮の着物を掴んだまま、うん、と頷いた。
「いいかい、この目や、この耳で、直接感じることも、確かに大切なことだろう。でも、それに頼ってしまうのは、間違いだよ。彼らはいつもお前の回りにいて、お前の思いを感じて、彼らもお前を大切に思っている。桐生の名を継ぐことは、実はとっても簡単なことなんだ。でも、実際には難しいと思ってしまいがちだ」
桂がきょとん、と蓮を見上げる。蓮が桂の頭をそっと撫でて笑った。
「桂、判らなくてもいいよ。そんなことは考えるものじゃないから。お前は生まれながらにして桐生としての資質を持って、それを自然と身につけた。今のお前には判らないかもしれないけど、いつか、きっと、お前が会うべき人に会った時に……」
蓮が桂に微笑みかける。そして蓮はその後の言葉を、けっきょく口には出さなかった。
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