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眩しい光が彼らの網膜を焼いた。
「これは、強過ぎる。みな、巻き込まれるぞ」
朝霞にはその声が克雅のものだと判った。
「朝霞」
といきなり、克雅に朝霞は抱き竦められた。逃げはしなかった。そして克雅の体から薄鈍色の《気》が立ちのぼっていることに気づいた。
「克雅様?」
克雅はギロッと睨んだ。
「お父様、だろ」
朝霞は克雅のその言葉に緊張を緩めた。
「お父様」
「朝霞、わしがここに来た理由を教えてやろう」
「お父様、こんな時にそんな話はないでしょう。後でゆっくりとお聞きしますから」
「朝霞、わしは日影に言われたのだ。上に立つ者として選択を間違えないように、と。お前の両親の時や日影の時のように。わしは選ぶべき道を見過ごすことがないように。だが、わしは、戸隠の王としてでなく、ただの一人の人として生きてきた。だが、ここに来たのは、お前を守ることはもちろんだが、わしはこの道を選びたかったからだ。わしの最後の選択が正しかったはずだと、自分で信じている。そして朝霞、お前に戸隠を受け継がすために。これがわしの選択。そしてこれからは、お前が自分で道を切り開くのだ。それがどんな道であれ、日影に育てられたお前なら、最良の道を選ぶことが出来るだろう。戸隠のためだけでなく、お前自身のために」
え? と朝霞が克雅を見つめる。途端、克雅が朝霞を突き飛ばしていた。朝霞がハッと克雅を見る。克雅の薄鈍色の《気》が頂点に達した。彼の中和能力が倭の《力》と接触する。
そして、霧が晴れた。
そこに残っていたのは、天照大神、天手力雄尊の天神。倭、崇、遙、朝霞、麻績、頓原、宍道、三刀屋、神室。何人かがそこにいないことに誰もが気づいた。最初に倭が倒れ、それを天照大神が支えた。二人の天神はみんなを見渡す。
「奈半利は消滅した」
物部も奈半利もいなかった。確かに。だが、まだ二人足らない。
「朝熊は奈半利の器だった。奈半利が消滅するためには、朝熊も死ななければならなかった」
感情のこもっていない声で、天手力雄尊が言う。
「そんなことは判っている。でも、お前たちなら、朝熊を助けることが出来たはずだ。お前たちが天神というのなら。奈半利と朝熊を離すことが出来たはずだ。朝熊は死んではいけないんだ」
頓原の叫びに天照大神は首を振った。
「それは違います。倭の《力》に私たちは自分を守ることで精一杯でした。あなた方がここに残っているのは、それぞれ守ってくれる人がいたからです」
崇は倭を、遙は麻績を、克雅は朝霞を、そして、頓原の中の大国主尊が、頓原と宍道、三刀屋を守った。神室は、天神がいたから自然に守られていたのだ。
「それに、戸隠の王の中和能力があったから」
天照大神はそう付け加えた。
「それで、克雅様が犠牲になった、と言うことか」
朝霞の声が震えていた。
「俺たちはこれからどこの一族なんて垣根を越えて……付き合っていけるんじゃなかったのか、朝熊……」
頓原が半分笑いながら言った。おかしくて笑ってしまいそうだった。どうして、朝熊が死ななければならない? 奈半利だけを消滅させることは可能ではなかったのか?
「朝熊」
と叫んで、倭は気がついた。
「朝熊、どこにいるんだ。悪い夢を見たんだよ。笑っちゃうけど、私がお前を殺してるんだ。朝熊、夢だけど、謝りたくて」
倭はそう言いながらきょろきょろと回りを見る。目の前に天照大神、回りに頓原や朝霞や……。だけど、探している人の姿は見えなかった。
「倭」
と天照大神が倭の頬を挟んだ。必然的に、倭の視線が天照大神に向く。
「朝熊は奈半利の器でした。奈半利を始末するには、器も消滅しなければなりません」
「器?」
倭が視線を泳がす。器? それは、朝熊のことなのだ。倭の脳裏に、夢が再現される。
「朝熊がこれを読めと言って紙を渡されて、それを私が読んで、朝熊が今だと叫んで、私がそれに向かって……」
倭の呟きがだんだんと小さくなる。
「我が神、天照大神。朝熊は私が殺したのか?」
天照大神は息を吸い込んだ。倭の声に感情が全く表れていなかった。
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