奈半利の王の執務室。王である物部とその腹心である双海。奈半利に残されたのは、二人だけであった。物部が王についた時、自分に忠誠を誓ってくれたのは、御荘、松前、双海の三人。そしてその部下に当たる八坂、八浜、室戸。その中でもう、双海しか残っていなかった。だが、物部にとってみれば、それは成功のための前戯であった。崇は自分の手にあり、伊勢の朝熊を自由に出来る立場にあり、遙は絶対に小学校に現れる。崇が目覚めるのは確実なのだ。それはまぎれもない、すぐ未来に起こり得る真実なのだ。崇の《力》を手に入れるのは奈半利だ。他の何者にもそれは譲れない。自分のものになるのだ。そう、双海にも渡すことが出来ない。奈半利の王は、自分なのだから。
「双海、そろそろ役者が全員揃う頃だな」
 嬉しそうに物部が笑う。物部は双海の冷たい視線がもはや怖くなかった。それが何故怖かったのか、それさえ忘れていた。
「布城崇を目覚めさせますか」
 双海がドアを開けながら呟く。これで、最後なのだ。奈半利の勝利は目の前にぶら下がっている。それは誰にも止めることが出来ない。
 深緋の球体が双海の手の上に浮かんだ。小学校の校庭に遙たちが入ってくるところであった。そのまま体育館へと向かう。少し離れたところに克雅たちがいて、小学校へと向かっていた。反対のほうに頓原の姿も見える。小学校の体育館には、子供たちが待っている。彼らは奈半利ではない。そして、双海の人形ではない。だから、遙はご満悦して帰途につこうとするだろう。崇に会ってもらうのは、その時であった。今回は、自分の人形を使うことをしないつもりであった。それになってもらうのは、朝熊だけで充分であった。操り糸のないマリオネット。朝熊にかつての仲間を始末させる。それは、双海が自分で気に入っているシナリオであった。シナリオを書き換えることなど必要ない。作者は自分なのだから。それを役者たちが勝手に変えることも許されない。脚本家の意見は絶対であった。


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