「間もなくだ」
 嬉しそうな声がする。朝熊は耳を塞いだ。
「無駄だ。お前は決して逃げることは出来ない。すべてを終えて、始まりに戻すのだ、その手で」
 耳を塞いでも頭の中に直接響くその声が、朝熊を嘲笑し続けた。朝熊自身の声で。
「やめろー!」
 と叫ぶ声は口から出ない。フッと気づいて、朝熊は後ろを見る。倭の哀しそうな視線がそこにあった。自分のほうに近づこうとする朝熊に、倭は一歩退いた。そして、その右手が額の勾玉に触れた。朝熊は立ち止まった。
「ああ、そうか」
 朝熊はそう呟いたはずであった。だが、相変わらず声は出ない。倭の勾玉が光輝いた。朝熊は動かないつもりであった。だが、自分の意志に反して、右手が勾玉に触れる。朝熊の口が開く。倭が口を開く。二人同時に同じ言葉を発していた。


←戻る続く→