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出雲の王国。 宍道は王の執務室にいた。傍らには三刀屋の姿があった。さきほど、頓原から今から登るとの連絡が入ったばかりであった。五真将は、東京羽田から熊本へ空路を取り、豊肥本線で立野、そして、南阿蘇鉄道で終点高森まで電車を使った。そしてその後は、325号線を徒歩で高千穂に向かう予定であった。つまり五真将は、今、高千穂まで38キロの地点にいたのである。 「三刀屋」 宍道は傍らに控える三刀屋を呼んだ。三刀屋が顔を上げる。 「これで、すべてが決まるのだな。我らの行末も、他の一族の行末も……」 「宍道様、我らが正義でありますから、敗北などあり得ません。我らにとって、これは聖戦なのですから」 三刀屋が22歳とは思えぬ老けた顔立ちに、笑みを浮かべていた。宍道はニコリともせずに、 「そう、誰にとっても……」 と呟いた。三刀屋がその意味が判らずに眉をひそめたが、宍道は説明しようとはしなかった。遙が言ったことを、宍道も言ったのだ。もちろん、遙が言ったことを宍道は知らない。だが、同じことを思った。これは、出雲、伊勢、戸隠、奈半利、四つの一族のそれぞれにとって、同じように聖戦なのだ。お互いに自分だけが正しいと思っている。それを譲らないからこそ、争いはなくならない。いつの世でも、それは一番知れ渡っているけれども、一番忘れ去られやすいことなのだ。 「三刀屋、私が五真将と合流すると言ったら、反対するか?」 宍道がニッと笑って三刀屋を見つめる。三刀屋は首を振った。 「宍道様のなさることに私が反対することがありましたか。そして、私はいつも宍道様とともにいます」 三刀屋は真面目な顔でそう言う。 「ふむ。そうすると、出雲を守るのはどうするのだ。私とお前が出ていくと、誰が出雲を守る?」 宍道の問いに、三刀屋は宍道をジッと見つめた。 「宍道様。宍道様のなさることに、間違いはございますまい。宍道様が五真将たちに合流なさる、ということは、その間の出雲の守りは万全だと思っていらっしゃるからでございましょう。そのことを考えずに、宍道様が行動なさるとは思えないのですが?」 三刀屋は当たり前のように言う。宍道が三刀屋の答に肩を竦めた。 「お前には敵わないな。奈半利が今攻めてくる可能性は、ゼロだ。それでもいちおう、私の結界は張っておくが、な。それで、出雲の守りはしばらく大丈夫だろう。ただし、私が帰ってこれなければ、そうも言ってはおられないな。その時は……」 宍道がフッと笑った。 「まあ、布石は置いておくさ」 宍道が刈安の球体を浮かべた。その中に高千穂を中心とした地図が現れる。 「三刀屋、すぐに出発しよう。目指す先はここだ」 宍道は地図の一点を指さした。すぐに地図は消え、宍道の刈安の《気》が拡がるにつれて、二人を包み込んだ。宍道の左手が三刀屋の右手を握る。刈安の球体が完全に二人を包み込んで、僅かに明るく輝いた、と見えた後、球体は消え去った。二人の姿も消えていた。
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