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つまりは、それから明後日後、遙は高千穂に向かって旅立った。もちろん、朝霞と麻績も一緒であった。そのことを、伊勢や出雲に伝える術を朝霞たちは知らなかった。その事をどうにかして彼らに奈半利よりも早く伝えなければならなかった。それが、遙を守ることと同時に、唯一朝霞たちがしなければならないことであった。
羽田から宮崎へ。空路を選んだ遙たちであった。そして、その同じ飛行機に、奈半利の御荘と松前の姿もあった。もちろん、それが奈半利であることを三人は知らなかったが。
「さすがは御荘ですわ。柚木野遙は、まんまと策にはまりましたね。これほど簡単に引っ掛かるとは思いもよりませんでした」
松前がにこにこ顔でそう言うのを、御荘はいつものように黒眼鏡をずり上げて松前を見た。
「松前、柚木野遙には相変わらず金魚のフンがくっついている。朝霞という男はともかく、霧島麻績は柚木野遙が奈半利に向かうことを何故認めたのだろうか。少し引っ掛からないか。奴は戸隠であり、高千穂に奈半利があることを知っているはずだ。それなのに何故、奴は彼女を向かわせるのだ。そうしてもらいたいことが、奈半利の目的だが、奴は何故それをしている? 奴は奈半利であることを選んだのか、いまさら? それとも、何か策でもあるのか? お前はそれを不思議には思わなかったのか」
御荘の言葉に、松前は顔色を変えた。御荘の考えは、言ってみればごく常識的なことであった。それに気づかない松前ではあったが、その分、御荘がその認識を怠ったことはない。どちらが優れている、というのではなく、お互いに劣っているところが相手にとって優れている、ということであった。
「御荘、では油断は禁物、ということですね。判っておりますわ。しかし、この飛行機に何らかのトラブルが起きないかぎり、二時間後には宮崎空港に到着します。今日のうちには、私たちの使命は果たされるのですわ。物部様に会わせる顔が出来ますわよ。布城崇はすでに奈半利に入っているでしょうし、柚木野遙が奈半利に入ることは間違いないことです。いくらあの二人が一緒だと言っても、奈半利は私たちのホームグラウンドではありませんか。土地が味方してくれますわ」
松前がにこにこと笑って言った。御荘が頷いて目を閉じる。宮崎行きの飛行機は地上を蹴った。
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