学生会室には朝霞と麻績がいた。朝霞は珍しく職務に励み、麻績はいつもの通りに仕事をしていた。
「お久しぶり、かな」
 ノックもせずに入っていった頓原はそう言って二人を見つめた。朝霞が嫌な顔をして立ち上がった。麻績は座ったまま頭を下げる。
「ところでさー、こんなこと言いたかないけどさ、いったい何をやってたわけ? 崇くんを守っているのは、お前たちの役目じゃなかったっけ? 布城崇は奈半利にさらわれたぜ。朝熊おにーさんたちが今行ったけど、もう場所を移してんじゃないかな。まあったく、困ったちゃんは出雲だけかと思っていたけどね。まあいいさ。これを言いに来たわけじゃないのさ。忠告してあげるよ、麻績。遙さんを一人にしないようにするんだね。布城崇を手に入れた奈半利が次に手に入れたいのは、たぶん遙さんだ。すぐにではないかもしれない。でも、狙うのは確かだ。こういう理由があって、というわけではないけど、確かに俺の勘の領域での話だけど、可能性としてはかなり確率が高いと思うな」
 麻績が口を開こうとした時、先に朝霞が言った。
「頓原、それはお前一人の考えか?」
「そうだよ」
 朝霞は頓原の答を聞いて目を見張る。その表情に頓原は不思議そうに朝霞を見た。
「朝熊が言っていた。崇と柚木野さんは対ではないか、と。伊勢で透明の勾玉の持ち主が現れる時、必ずそれに対の人が現れる、と」
「へえー」
 と頓原は朝霞を見つめる。
「そして、もしかすると、崇を目覚めさせることが出来るのは、柚木野さんなのではないか、と」
 頓原が舌の先で唇を舐めた。
「なるほどね。全く違うところから、同じ答を出したってことか。つまりはもっと可能性が高くなった、ってことだね」
 そう言って頓原はドアのほうに向かった。ノブに手を掛けて、くるっと頓原は振り向いた。
「俺が出雲ってことで気に入らないかもしれないけど、出雲は王国の中の奈半利を一掃したぜ。伊勢はどうするのか知らないけど、戸隠はそれが可能かい?」
 頓原がニッと笑って朝霞に言う。朝霞は頓原のすぐ側まで行った。
「崇はどこに連れていかれたんだ。それを聞いていない気がしたんだが?」
 頓原が朝霞を挑発するように笑いを浮かべた。
「それを聞いて、お前に何か出来るってわけ? 無駄だよ、いまさら行っても。朝熊たちもすぐに帰ってくるさ。その時に、もう一度会いにくる。もっと重要な話があるからね。朝熊に伝えておいてよ。俺に電話するように。別に聞きたくなければ構わないけどね。まあ聞いても何も出来ないお前は、聞くだけ無駄かもしれないけどさ」
 そう言って頓原はクスクス笑いながら出ていった。
「あの野郎……」
 朝霞が唇を噛み締めて呟いた。麻績がその側に寄る。
「朝霞、奈半利が布城くんに危害を与えることはないですよ。それに、彼も布城くんをさらわれたことで、かなり落ち込んでいるようですし。でも、確かに布城くんを一人にしたのは、私たちのミスですね」
 そう言って麻績は一つ息を落とした。
「朝熊たちが戻るのを待ちましょうか。頓原の話はかなり重要だと思いますよ」
 朝霞は無言で自分の席に戻った。そして仕事を再開する。麻績はそれを少しの間見ていたが、自分も仕事を片づけ始めた。


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