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船通はその部屋の前でしばらくじっと立っていた。入ろうか、入るまいかと悩んでいるのだ。やがて一度深呼吸をして、船通は扉をノックする。
「どーぞ」
中からの声に、船通はもう一度深呼吸をして入っていった。
「いつまで悩んでんのかと思ったよ。まあったく、お前たちは何を考えてるんだか」
いきなりの容赦ない台詞に、船通はだが怒ることはなかった。頓原がふーん、と船通を見つめる。
「かなりの思いで来たんだろ。お前にしては上出来だよね」
そう言って、頓原は船通に椅子を勧めた。船通は座らないまま、
「頓原、私に《力》の使い方を教えて欲しいのです。五真将を名乗っているのは伊達ではない、と言いましたね。それが本当なら、私にはあなたと同じくらいの《力》があるということなのでしょう。それを使えるようになるにはどうすればいいのですか。お願いします、頓原、教えてください」
と頭を下げた。頓原は驚いた顔をして船通を見る。プライドが高い船通が、人に頭を下げているのだ。それもこの俺に…と、頓原は不思議そうに見ていた。
「すごいね、船通。何がお前を変えたんだい」
船通は頓原に頭を下げたままだった。
「……ただ、死にたくないだけです。まだ、死にたくないんです」
船通の声は震えていた。それは、涙ぐんでいるのか、それとも、頓原に頭を下げていることに対する屈辱のためなのか。それは頓原には判らなかった。
「いいよ、俺はいつでもそれを受け入れるつもりだったさ。お前たちが言いだすことがあったらね。ずっと、待っていたのさ。俺たちが五真将を名乗ってから……」
船通が顔を上げる。その瞳は乾いていた。
「待っていた……って、何故、それを自分から言わなかったのですか。それならば、潜戸が殺されることもなかったはずでしょう」
頓原が怒ったように船通を見つめる。
「船通、それは今だから言える結果論だろ。俺に従うようなお前たちだったのか。俺がね、何を言っても聞く耳を持たなかったくせに。いまさら俺を責められても、潜戸が殺されたのは俺に責任があったわけではないぞ。まあったく、言いがかりもいいとこだよ」
船通は目を逸らした。頓原の言っていることは真実だ。それに気づいたからだ。
「頓原、謝ります」
「いいさ、別に。俺って不幸な星の下に生まれたんだから……」
そう言って、頓原は立ち上がった。
「ついでだ、斐川と一緒にやろうか」
頓原の後に続いて、船通も部屋から出ていった。
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