さて、校庭のベンチに座っているのは、やはり奈半利であった。18歳の男女の双子。八坂と八浜であった。二人は他の奈半利に先んじて東京に出てきていた。そしてすぐさま崇の下見をしに陬生学園にやってきたのであった。
 八坂がいちおう兄、八浜が妹ということになっていた。二人はいつも一緒に行動していた。一人でも《力》を出すことが出来るが、二人一緒ならば、倍以上の《力》を出すことが出来るからだ。二人とも全く同じように髪を短く切り、全く同じ恰好をしている。八浜の胸の膨らみと顔つきで女性だということが判るのだ。背の高さは確かに八坂のほうが高いが、極端に違うわけではなかった。
「あれが伊勢と戸隠というわけね」
「そう、そしてあの真ん中の男が、魚梁瀬様を倒したという、伊勢の朝熊という男」
 二人はカフェテラスに視線を向けてはいなかったが、三人を見つめていた。
「もう一人の男が、戸隠の朝霞。そして、伊勢の倭」
 八坂はそう言って空を見上げた。
「二人とも、いい男」
 八浜の言葉に、八坂はムッとして八浜のほうを向いた。
「倭もいい女だ」
 八浜が八坂の言葉を聞いて、クスリと笑った。
「八坂、妬いてるの。バカねえ、八坂のほうがいい男なのは、決まっているじゃない」
 八浜の言葉は、すなわち己自身をも指しているのだが、八坂も頷いて、
「もちろんだ。倭よりも、八浜のほうがいい女だしな」
 と言ったのだった。
「どうする? きっと向こうも気づいたんじゃないのか」
 クスクスと八浜が笑った。
「いいじゃない。手を出してくれば、迎え撃つだけよ。大丈夫、私たちに勝てるわけないじゃない。二人なら、魚梁瀬様さえ私たちの敵ではなかったんだから」
「まあな」
 二人一緒ならば、何でも可能であった。二人はお互いをお互いに触媒にすることが出来、それによって《力》を高めることが出来た。
「一人ずつ始末するのも、名案だな。御荘様たちが来る前に、露払いをしておこうか」
「そうね」
 そう言って二人は笑い合った。


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