朝熊が学生会室に入っていくと、麻績は朝霞の机の上に書類を積み上げていたところであった。
「朝霞は相変わらず不真面目だな」
 朝熊が笑ってそれを見ていた。麻績が笑いを返す。
「まあ、仕事熱心な朝霞というのも、不気味ですけどね」
 どうぞ、と麻績は椅子を促した。朝熊は椅子に座ると、
「出来のよい生徒を持った教師としては、それを実戦で試したいと思っている」
 そう言って朝熊は麻績を見つめた。麻績が朝熊を見つめ返す。
「僕が《力》を使いこなせるのを、確かめたい、というわけですね」
 朝熊は頷いた。
「僕も、試してみたいと思っていました。ということは、奈半利が現れたのですか」
「おそらく、新手だと思う」
 麻績はニコッと笑った。
「ぜひ、僕にやらせてください。やはり習うより慣れろですからね、こういうことは」
 じゃあ、と朝熊は麻績を窓のところへ促した。そして、校庭の木陰のベンチを指さした。
「あそこに座っている男女、あの二人を尾けてくれ。麻績に頼みたいことは、あの二人を倒すことじゃないぞ。出来れば、東京での奈半利の隠れ家を見つけたい」
 麻績はジッとそれを見て、
「判りました」
 と頷いた。
「一人で無理だと思ったら、足を踏み込まないことだ。奈半利がどれだけの人数を送り込んでいるか判らないし、麻績は我らの貴重な人材なんだ。お前を失くしたくない」
 麻績は再び頷く。
「判っています。僕もまだ死にたくないですからね」
「じゃあ、私は下にいる」
 と言って朝熊は出ていった。そして、カフェテラスに戻った。


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