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魚梁瀬は麻績にすぐに会いに行った。まだ一日しか経っていなかったが、魚梁瀬は麻績がいい返事を言うだろうことを確信して会いにきた。
麻績はあれから朝霞と遙のことについて話はしなかった。だから、遙がもしかしたら《力》に全く干渉されることがないかもしれない、ということを知らなかった。朝霞はそれを麻績には言っていなかったのだ。朝熊との話し合いで、朝霞は麻績には遙のことを知らせないことにしたのだった。
「僕はあなたに従いますよ、不本意ですが。遙さんの命には代えられませんからね」
麻績は無表情のままで言った。魚梁瀬が満足そうに頷いた。
「麻績、その選択が正しかったと後で判るさ。しかし、お前をまだ信用しきってはいない。それを忘れるな」
「判っています」
麻績が魚梁瀬をジッと見て言った。
「麻績、いい返事が聞けて、私は嬉しいぞ。計画については後日連絡する」
と魚梁瀬は立ち上がった。麻績も続けて立ち上がった。玄関先で魚梁瀬が振り返る。
「麻績、少しはいい顔をして欲しいな」
そう言って魚梁瀬は麻績の頬に触れた。強張った笑顔を麻績は浮かべた。魚梁瀬はフッと笑うと霧島家を辞した。麻績は閉じた扉をジッと睨んでいた。拳を固め、決して他人には見せない表情を浮かべて。
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