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その紅の球体は暗闇の中に浮かんでいた。球体の中に映っているのは、魚梁瀬の姿であった。そして、それを暗闇の中で見つめているのは物部であった。
ここは奈半利の王国。王の執務室であった。魚梁瀬が東京へ行ったことと、そして今回のことが遅々として進まないことで、魚梁瀬は奈半利の王を降りることをもう発表していた。その片腕であったのが物部であり、魚梁瀬に次ぐ《力》の持ち主として認められていることから、物部が次の奈半利の王と決まったも同然であった。魚梁瀬が死ぬか、あるいは奈半利に戻って物部を正式に王と発表するかしないかぎり、まだ魚梁瀬が奈半利の王ではあったが……。
物部は右手を振って、紅の球体を消した。その消えた回りに、三つの人影があった。
「奈半利は滅びぬ。決して、消滅はせぬ。魚梁瀬が死んだところで、何も変わることはない。お前たちの出番も間もなくだ」
三つの人影は無言でそこから消えた。ククククと物部は笑った。一瞬置いて高らかな哄笑が響きわたった。だが、執務室の外に洩れることなく、まして東京まで届くわけはなかった。
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