倭と朝霞はカフェテラスのすぐ近くまで来ていた。二人には立っている朝熊と座っている頓原の姿が見えたが、朝熊の紫紺の靄が大きくなったのに気づいたのは、倭だけであった。少しの間だけ紫紺の靄が二人を隠し、再び二人の前に二人を現した。もちろん、その間、倭にも紫紺の靄が見えていたわけではない。
「姫君?」
 朝霞は何も気づかずに倭の顔色が変わったことを訝った。倭は一瞬で表情を消して、朝霞に笑いかけた。頓原が立ち上がって、二人に頭を下げて去っていく。朝霞はその顔色がないことに、後になって気づいた。


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