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やがて、朝霞は克雅に抱かれながら、頭の片隅で考え事をしていた。自分の《力》が強くなっていくにつれて、他の人の《力》の程が見えてくる。そして気づいたのだ。麻績に《力》があることが。今までは《力》と呼べるものを麻績は持っていなかった。だから、それはいきなりだったのだ。麻績が戸隠の一族であることを考えると、《力》が急に出てくることもあり得るのだろう、と朝霞は思った。
「朝霞、何を考えている」
克雅の右手が朝霞の腿の内側を撫ぜる。ゾクッとするような快感を感じて、朝霞は吐息を落とした。
「麻績に、《力》が出てきた」
ポツリと朝霞は言った。克雅は右手の爪で引っ掻くように朝霞の裸体を愛撫していた。
「麻績に?」
克雅はそう言って、朝霞の胸に舌をはわせた。それ以上の会話をその時二人はしなかった。朝霞は快楽に身を委ねることに徹してしまい、克雅もそれの手助けをしたわけであった。
「学園の中が騒がしくなったようだな」
事が終わって、克雅はそう言った。朝霞は頭を下げた。
「すみません。学園内のことは僕が見ておかなければならないのに、少し僕の手が届かなかったようです」
朝霞の素直さに、克雅はフンと笑った。
「今日はしごく殊勝じゃな、朝霞。学園のほうはお前に任せているから、まあ好きなように判断するんだな。お前には、学園でのわしの跡を継いでもらいたいからな。わしは学園にトラブルが起こらないかぎり、手を出さない。気をつけて欲しいのは、学園にトラブルが起こらないようにすることと、学園内で死人が出ないようにすること。学園内というより、陬生学園の関係者、と言ったほうがいいな」
「判っています、克雅様」
「お父様、じゃよ」
「はい、お父様」
克雅が笑って、朝霞の前髪を掻き上げた。
「朝霞、お前はわしの愛しい息子だよ」
松葉色のカーテンが僅かに隙間を作って、遠くのネオンの光を朝霞の瞳に映す。ふと朝霞は、克雅をジッと見つめた。
「僕がもし、あなたより先に死んだとしたら、あなたは哀しんでくれますか」
克雅がフフッと笑って、
「どうかな」
と言った。朝霞はその答に満足して起き上がった。哀しむ、と言われても、哀しまない、と答えられても、朝霞は満足しなかっただろう。
「お前に同じ質問をして、お前は何と答える? 世の理のようにおそらくわしのほうがお前より早く死ぬだろう。それをお前が哀しむか、あるいは、それが世の常である、とただそれだけを思うか。反対にお前が世の理に反して、わしより早く死んで、わしがそれを哀しむか。お前の心の中のその答とわしの心の中の答は一緒だろうな、朝霞」
克雅の右手が朝霞の肩先から滑って、シーツの上に落ちた。朝霞が服を着て部屋から出ていく。
「わしは、でもきっと……お前を」
克雅の呟きは決して朝霞には届かない。
今日の二人の逢瀬はこれで終わった。
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