そして、霧島家に檮原が訪れたのは、夜の帳が下りるころであった。
「何の用でしょうか」
 いちおう、奥の応接室に檮原を通しておいて、麻績は冷たく檮原に聞いた。檮原は麻績をジッと見ている。
「最初に、謝りたい」
 檮原はそう言って頭を下げた。麻績が冷たくそれを見つめる。
「それは、父を殺したことに対してですか」
「璃寛を、私は弟のように思っていたのだ。璃寛も昔は、私を兄と慕ってくれていた」
「それが、父を殺してよいという理由にはならないはずですが。檮原様、私は父と同じように生きたいと思っています。私は戸隠の一族です。いまさら、奈半利の一族なのだ、と言われて、それを受け入れるわけにはいきません。私にとって、戸隠であることが生き甲斐なのです。檮原様、あなたの来た目的には、私は沿うつもりはありませんよ。諦めてお帰りください」
 そう言って、早々に檮原を追い出そうと麻績は促した。檮原は立ち上がったが、すぐには去ろうとはしなかった。
「麻績、奈半利は諦めが悪いんだ」
「残念ですが、私は頑固なんです」
 麻績を見て、その上に璃寛を重ねて、檮原は霧島家を辞した。


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