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その夜、倭は夢を見ていた。
「後月様、流水様」
倭の前には、後月と流水がいた。倭は二人に駆け寄った。
「生きていらしたのですね、お二人とも。お願いです。私に助言を与えてください」
二人は同じような笑いを浮かべた。
「倭、私たちはあなたに、何も言い残したことはありません」
「あなたが取るべき行動は、あなたの中に答があります。あなたは、その答を見出しているはずですよ」
倭が困った顔になって二人を見る。
「私には、耐えられません。ずっと守り続けなければならないなど、私には出来ません。本当に、あの方は目覚められないのですか」
後月と流水は、顔を見合わせた。
「倭、それは判りません、としか答えられません」
「それに、倭、布城崇が、本当に透明の勾玉の持ち主なのかは、私たちにも判らないのです。目覚められないかぎり、それが判らないのですから」
「では、全く違うということも、あり得るということですか」
倭の表情に虚しさが現れていた。それを見つめて、後月が倭の左の耳たぶに触る。流水が同じように、右の耳たぶに触る。そこには、二人の勾玉がピアスに変わってつけられていた。
「倭、私たちは、ずっとあなたを見つめ続けていますよ。私たちが一緒です。そして、あなたには、朝熊もついています。何よりもあなたを大事に思ってくれている人が、いつも側にいるではありませんか」
「倭姫、近いうちに何らかの動きがあるでしょう。あなたは、退屈しなくてすむでしょうね」
「後月様」
「倭」
二人が同時に言った。
「その私たちの勾玉が、あなたの側にあるかぎり、私たちはずっと側にいます。あなたがそれを自分の意志で外さないかぎり、私たちはあなたの力になるでしょう。力とは言えないほどに微力なものですが」
そして揺らめいて、陽炎のように揺らめいて消えた。
倭は目が覚めた。
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