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崇はクラブが終わると、今日はまっすぐ帰るか、と思いつつ部室から出たところを、朝霞に呼び止められた。麻績が一緒であった。
「崇ちゃん、一緒に帰ろうか」
と崇が何か言う前に、その右腕を取った。麻績が朝霞にならって、崇の左腕を取る。
「両手に花ですね、布城くん」
クスクスと笑って、麻績が言った。自分より遙かに背が高い二人に腕を取られた恰好で、崇は帰途についた。
「いきなりどうしたんだ、朝霞」
崇は諦めて二人を従えることにした。
「崇ちゃんってさ、放っておいたら知らない人にひょいひょいついていきそうだから、ガードマンを買ってでたわけ」
真面目な口調で朝霞が言う。崇はまたか、という表情になると、
「朝霞がそう言うってことは、冗談ってことだな。でも、霧島先輩まで一緒なのは何故なんです?」
麻績とは全く一緒に帰ったことがない。いつも麻績は一人で帰るか、あるいは車が迎えにきているかのどちらかであった。朝霞とも一緒ではなかった。
「実は会長が、布城くんの母上のお料理を褒めていまして、では、一度ご相伴にあずかろうということになったんですよ」
「え」
いったい、朝霞はどういうことを麻績に言っているのか。
「ちょっと待ってください。朝霞、いきなり来られてもさ」
と崇が言いかけたところ、朝霞が、
「大丈夫さ。小母様にはさっき電話しておいたから。何人でも連れてきてちょうだいってね、お許しをいただいています」
とにこにこと笑いながら言った。崇はがっくりと肩を落とした。
「母さんは朝霞を気に入っているからなあ……」
呟くように崇は言った。
「布城くん、君が迷惑ならば、僕たちは行くのをやめますけど?」
麻績がそう言って、崇を見た。崇は慌てて首を振った。
「いいえ、とんでもないです。霧島先輩になら来ていただきたいです」
「あ、それって、ひいきじゃないか、崇。それは、僕には来て欲しくないと言ってるわけかなあ。朝霞さんは、頭が悪いからはっきり言ってもらわないと判んないよ」
へらへらと笑いながら、朝霞は言った。
「そうだな、朝霞。当たり前だよ。どれほど母さんがお前のことを気に入っていたにしても、これほど再々なのは遠慮して欲しいよね。そうは思いませんか、霧島先輩」
麻績は、朝霞と崇を交互に見て、肩を竦めた。
「ま、朝霞が悪いのは当たり前だけど、布城くん、君も朝霞に目を付けられたのが、運の尽きと思って諦めたほうがいいと思いますよ」
そうそう、と朝霞が肯定の頷きをしていた。崇は溜め息をついて麻績を見上げた。
「霧島先輩も、存外いい性格をしているんですね。さすがに、朝霞と長い間付き合っているだけのことはありますね」
「それは、褒めてもらっている、ということでしょうか。布城くん、僕のことは名前で呼んでくれていいですよ、麻績ってね」
崇は頷いて、
「はい、麻績先輩」
と言った。
やがて、三人は布城家にたどり着き、そして、崇の母親、京の料理にありついたのであった。
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