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倭は崇がクラブを終えた後、朝霞と麻績とともにいるのを見届けて、帰途についた。そして、嫌な予感を感じて振り返ると、頓原が近づいてくるのが見えた。
「倭おねーさん」
頓原は嬉しそうに手を振りながら、倭に近づいてきた。そして倭の隣に来ると、きょろきょろと辺りを見渡した。
「よかった、今日はおとーさんは一緒じゃないんだね。ラッキーじゃん」
倭は無視してどんどん歩き続けた。頓原はそれに苦もなくついてくる。
「頓原、邪魔だ」
いい加減頭にきて、倭は頓原に言った。頓原は気にした風もなく、隣でにこにこ笑っていた。
「これ以上、私につきまとうと言うのならば、私にも考えがある」
倭は立ち止まって言った。頓原が少し行きかけて振り返った。
「それは、俺に対して、《力》を使うってこと?」
「そうだ。それが嫌なら、二度と私の前に現れるな」
頓原はクスッと笑った。
「駄目だよ、倭おねーさん、自分に出来ないことを言うのは……。おねーさんには、それが出来ないさ。おねーさんの《力》が俺より強いのは、多分事実だけど、おねーさんには、俺を攻撃することが出来ないでしょ。おねーさんは優しいもの。俺に《力》を使ったとしても、俺は避けたりしないよ。それでも、おねーさんは俺を攻撃することが出来るの? 無抵抗の人に対して、おねーさんはその《力》を使うことが出来ないでしょ」
倭は反論出来なかった。頓原の言うことが真実であり、おそらく、もし使ったとして傷つくのは、倭自身であることも。倭は悔しくて唇を噛み締めた。
「それに、おねーさん、今日は出雲五真将の一人として、伊勢の方に使者として来たんだからね。話はあのおとーさんと一緒でいいんだ」
「そうか……。でも、朝熊は一緒じゃない。いつ帰ってくるか判らないぞ。それに朝熊は私の父ではないぞ」
「うーん、そうだね。じゃあ、こうしよう。あのおとーさんが帰ってきたら、この番号に電話してくれる。俺の携帯電話にかかるから」
そう言って頓原はメモを渡すと、
「じゃあまた」
と言って立ち去った。今日はやけにあっさりと引き下がったな、と倭は思いつつ、再び帰途についた。
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